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氷炎の舞踏曲
【ファンタジー 官能小説】

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一人ではできない事、ついての記述。-3

「!!」
 思わずソファーから腰を浮かせて、サーフィは半立ちになる。
 ヘルマンも立ち上がり、手を伸ばした。
 強く抱きよせられたせいで、テーブルを飛び越えてその胸に倒れこんでしまう。
「君はもう少し、賢いと思っていましたよ。男の趣味も悪すぎます。」
 舌打ちせんばかりに、まくしたてられた。
「しかも、何を言い出すかと思えば、メイドだなんて!君をメイドに雇ったりしたら、僕はメイドに手を出す下種な雇い主になってしまいます!こんな魅力的な女性と暮らして、我慢できるはずはありませんからね!君はもっと、自分の魅力を自覚すべきで……」
「も……もうしわけありません……。」
 あっけに取られながら、なんだか可笑しくてたまらなくなった。
 いつも取り澄ました、何でもパーフェクトな不老不死の怪人が、アイリーンのまだ小さな息子のように見えたのだ。
 あの坊やは、好きな女の子に話しかける時、いつも素直になれないで、こんな風に顔を真っ赤にして怒ったような口を聞いてしまうのだ。

 『妻でしたら募集しています。』だなんて!もっとマシな言い方はできないのだろうか!

「それで、雇われていただけますか?業務内容は、僕を愛してくれることです。もちろん、メイドではありませんので、寝台にも遠慮なく引っ張り込みますよ。」
 拗ねた口調で、ヘルマンが尋ねる。
「先に申し上げますが、契約期間は一生涯です。おばあちゃんになっても、引退は許しませんからね。」
「フフ……。もう少し、夢のある言い方で誘って頂けません?」
 もう可笑しくて可笑しくて、くすくす笑いながら、サーフィはヘルマンを見上げる。
 勘違いしていた。
 怒っていたように見えていたのは…………信じられないことに、いつも超然としているこの人が、照れていたのだ。
「はぁ……。君はアイリーンの影響で、随分と性格が悪くなりました。」
「逞しくなったのです。」
「そういう事にしておきましょう。」
 ヘルマンが肩をすくめる。
 一度サーフィを離し、優雅な仕草で手をとって軽く口付けた。
「愛しています、サーフィ。僕と結婚してください。」
「――――はい。」
 緊張のあまり、声が裏返ってしまった。知らず知らずに涙が溢れて、頬を伝い落ちる。
「サーフィ……」
 優しい声で名前を呼ばれ、また抱きしめられた。
 その声はストンと心に落ちて、サーフィの全身を幸せで満たす。
「君は……僕に捕まるべきではありませんでした。」
 苦しそうに眉をひそめ、ヘルマンが呟く。
「僕が君につけた傷は、許されるものじゃない。それに……僕といる限り、君には辛い思い出がまとわりつく。」
「あ……。」
「君が辛い過去を忘れるなら、僕とだけは、一緒にいてはいけなかった……あの林で、僕がどんな思いで君を手離したと思ってるんです……。」

――この方は、そんな思いに悩んでいたのか……。

「バカな子です。……逃げようとしても、もう手遅れですよ。絶対に、離したりしません。」
 きつく抱きしめられ、サーフィも抱き返す。
「私こそ、もう二度と逃がしませんわ。」
 こんな表現は無礼かもしれないが、なんて……なんて可愛い人だろう!
「愛しています。ヘルマンさ……まっ!?」
 いきなり唇をふさがれ、息も付けないほど激しく貪られる。
「んっ!んぅ!?」
「言い忘れましたが、妻になったからには、『さま』は止めていただきますよ。」
「あ……」
「はい、やり直してください。」
 ニヤリと人の悪い顔で、ヘルマンが促す。
「え!?」
 かぁっと、頬が熱くなって真っ赤になるのがわかる。
「あ、あ、愛してます……ヘルマン。」
「よくできました。」
 額に、ごほうびのような軽いキスが落される。そして有無を言わさずに横抱きに抱えあげられ、隣室に連れて行かれた。
「えっ!?あ、ここは……」
 隣室の、きちんと整えられたベッドに押し倒され、サーフィは戸惑いの声をあげた。
 まだ日が高い時間で、窓からはきらめく陽光が差し込んでいる。
 健全な太陽の光に照らされてこんな事をするのは、とんでもなく不埒な気がする。

 しかし、それを訴えたところで無駄だった。
「夜までなんて、とても待てません。」
 首筋に唇を這わせながら、ヘルマンがさも当然だというばかりに、言い放つ。
「あのままソファーに押し倒さなかっただけでも、勲章ものの自制心ですよ。」
「あっ!」
 首筋の一点を強く吸われ、背が仰け反った。
「君の感じる場所は、全部覚えています。」
 それを証明するように、つぎは鎖骨を甘く噛んで、またサーフィを震えさせた。
「女性を抱くのは、一年ぶりです。君を抱いて以来、他の女性は全て色あせてしまいましたからね。遊びでも抱く気にはなれません。……僕の特別は、君だけです。」
 ボタンや留め紐も、ヘルマンの器用な指先にかかっては、魔法のようにあっというまに外されてしまう。硬くとがった乳首を弾かれ、快楽に息が詰まりそうになる。
 その間にも、何度も何度も口付けられ、胸が痛くなるほど切ない声で、『愛してる。』と囁かれた。

 ああ……これを言ってくれていたの。

 あの三日間、何度も唇の動きだけを感じ、声にならなかった言葉は、これだったのだと、確信する。


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