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氷炎の舞踏曲
【ファンタジー 官能小説】

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囚われの一夜目目についての記述。-1

 泥のような眠気が全身にべっとりはりつき、意識がはっきりしない。そのくせ頭の奥へ鈍い痛みが絶え間なく襲う。

「お前の子を孕んだりする事はないのだろうな?」
 眼を開ける事もできないまま、カダムの声が聞こえた。
「ありえませんね。未完成のホムンクルスには、妊娠能力がありません。」
 ヘルマンの素っ気無い声も聞こえた。
「処女に戻す事ができるというのも、本当だろうな?」
「処女膜を再生する薬なら、ございますよ。錬金術ギルドには、良家のお嬢様から、その手の注文がよくきますから。」
「なら良い。性奴隷として十分に仕込んだ後、その薬で処女に戻せ。それなら我慢してやる。まったく、あのバカげた風習のせいで……」
「……ぅ。」

 無理やりに眠気の泥をそぎ落とし、なんとかサーフィは眼を開ける。
「……ここ、は?」
 ドレスのまま、見たことも無い部屋のベットに寝かされていた。
 そこは、天井が低く狭い小さな部屋だった。
 置かれている調度品や、サーフィの眠っていたマットレスも上等のものだったが、鉄格子のはまった小さな窓や、同じように格子のはまった覗き穴付きの扉など、まるで牢獄の雰囲気だ。
 室内には、サーフィの他にカダムとヘルマンの三人だった。
「王家の隠し部屋だ。主に、邪魔な親族を幽閉する目的で作られたものだがな。」
カダムが歯をむき出して凶悪な笑顔を向ける。
「陛下……」
 状況がまるで把握できず、うろたえたが、ふと右手首の違和感に気づいた。
「枷!?」
 眠っている間につけられたのだろう。
 右手首には、太い鎖のついた頑丈な鉄かせがしっかりはまり、鎖の先は壁に埋め込まれている。
「散々世話になっておきながら逃げ出そうなど、恩知らずにも程がある話だな。サーフィ。」
 あえて柔らかい口調で、嫌みったらしく耳元に囁かれる。
 心臓が、凍りつく。なぜそれをカダムが知っているのか……。
 考えられる理由は、ただ一つだった。
 サーフィのつきささるような視線を受け、ヘルマンがひょいと肩をすくめた。
「すみませんが、僕の雇用主は、君ではありませんので。」
「そうだ。この男は、造れるものなら何でも造ると、俺と契約をしている。」
 サーフィに言いながらも、返答を促すようにカダムはヘルマンを見た。
「ええ。」
 錬金術師は、短く素っ気無い返事をする。
 雇用主に対しての礼節はギリギリに守っているものの、あいかわらず慇懃無礼な態度だ。
 苦々しげにヘルマンを睨みながら、カダムが高圧的に命じた。
「ヘルマン、一週間やる。サーフィの身体を仕込んで、従順な性奴隷にしあげろ。」
「――――――っ!!!!」
 あまりの衝撃に、頭が真っ白になった。
 その言葉を何度も脳裏で反すうしてから、やっと意味を理解した。
 それこそ、これ以上の絶望はないと思っていたのに。
「サーフィ、やはりお前は信用できん。この手で屈服させ、処女を奪ってやろうと思ったが、暗殺などされたらかなわん。」
「……。」
 痛い所を突かれた。
 夜毎見る悪夢に後押しされ、カダムに対する感情は、すでに耐え難い憎悪にまで成長していた。
 後で捕まり処刑される覚悟さえすれば、サーフィは素手でだって、確実にカダムを殺せる。
 逃げ出すのに失敗したら、最後の反抗手段として、考えてはいた。
 この男に好きにされるくらいなら、いっそ刺し違えてでも……と。

「は、図星か。ホムンクルスは元の全てを複写する……だったな。やはり母と同じ、愚かな売女だ。」

 囚人に火事などを起こさせないためか、部屋の中には灯りがなく、扉の格子の外にランプがつる下がっている。陰気な灯りが、カダムの醜悪な表情をいっそう不気味に照らした。
「……。」
 上手く呼吸ができない。
 窒息しそうなほど、苦しくひきつる喉で、何度も必死に空気を吸い込みながら、きれぎれに唸る。
「違う……私は、知っています……。最低なのは……母ではなく、貴方だ!!」
「なに?」
 初めてサーフィから向けられた、明確な反抗の言葉に、カダムが一瞬たじろぐ。
「自分が受け入れられなかった腹いせに、人質をとって脅したばかりか、その約束を反故にして、 彼女の子と夫を殺した!!」
「……フン。まさか、記憶まで受け継いでたか。」

(そうだ。私は忘れない!!)

 サーフィの中で、もう一人の『サーフィ』が叫ぶ。
 幼いあの日、死にかけたサーフィを励まし叱咤したその声と、いまやサーフィはまったく同じ声になっていた。

「貴方がした事を、私は許さない!!」
(貴様がした事を、許すものか!!)

 しかし、カダムは恥じる気ももわびる気も、欠片も持ち合わせていなかったようだ。
「……くっ、ハハハハ!!俺がそうしたからこそ、生まれる事ができた代用品の分際で、なにをほざいてる。」


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