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氷炎の舞踏曲
【ファンタジー 官能小説】

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囚われの一夜目目についての記述。-2

「え……?」 
「考えても見ろ。あの女が、幸せにそのまま暮らしていたら、お前は存在しない。母親の犠牲を喰って成り立った害悪めが!どのツラをさげて俺を非難する!?」
「……!」
 どんな武器よりも、痛烈な一撃だった。サーフィの全てを根底から否定し、悪役を押し付ける、猛毒をまとった言葉の槍だった。
(コイツのいう事など、聞くな……!!)
 脳裏で励ます声が、急速に小さく遠のき、説得力を失っていく。
カダムの言葉は、都合のいい言い逃れだ……それでも……一部は、たしかな真実だった。
「あげくにこうしてあっさり見抜かれ、俺に復讐することすらできなかった。お前は所詮、出来損ないの粗悪品だ。」

 あくまで小心な卑怯者らしく、サーフィから少し離れた場所で、せせら笑う。
「まぁ、失敗作でも、18年もかけて育てあげたのだから、これからもそれなりに使ってやる。もう二度と、歯向かう気力もなくなる程、お前の大好きなヘルマンに、徹底的に躾けなおしてもらえ。」
「っ!!!…………い、いや…………。」
「何が不満だ?お前はヘルマンに抱かれたかったのだろう?愛していると、自分でそう言ったはずだ。」
「っ!?」
 信じられない。まさか、あの時サーフィが言った事さえ話していたというのか。
 もう、ヘルマンを見る気にさえなれず、ヘナヘナとシーツの上に両手をついて、うな垂れた。
 それを見たカダムが、満足そうに口を歪める。
「なるほど。ソフィアの言うとおりだったな。まったく、なかなかに女は残酷な事を考える。」
「王妃……さま……が……?」
 シーツに視線を落したまま、虚ろにサーフィは唇を動かした。
「お前がヘルマンに恋している事に、アイツは気がついていた。どうせ弄んで嬲るなら、恋した男をつかってやれと、笑っていたぞ。」
「……。」
 ああ……そう。
 すでに堕ちきっていた絶望には、もう大した感慨も無かった。

「フン、この男が、お前に本気で情を移すわけがなかろう。冷酷という言葉すら生ぬるい人でなしだ。」
 随分な言い様だが、いつも通り、とくにヘルマンは気にするようすもない。
「さっさと始めろ。」
 そう促されると、ヘルマンはチロリと雇用主を横目で見て、冷笑を唇に乗せた。
「他人の睦言を覗く趣味がおありですか?」
 深く意味を考えずとも、『出て行け。』と、はっきり言っているのだ。
「くっ……一週間だ!それ以上は、一日も待たんぞ!」
 捨て台詞と共に荒々しく扉を閉め、石畳に足音を響かせながら、カダムは去って行った。

「……。」
 身じろぎもせず、呆然とサーフィはへたり込んでいた。大きく開いたままの両眼からは、涙すらもう出ない。
 それでも、ヘルマンの指先が頬に触れた瞬間、弾かれたように後へ飛びのいた。
 だが、ただでさえ狭い室内だし、ベットも大きくはない。すぐに石壁に背中がぶつかる。
 手首の枷から伸びた鎖が、じゃらん、と重い音を立てた。
「さ、触らないで、下さい!」
 ガチガチ鳴る歯を喰いしばり、ヘルマンを睨みつけて、やっと言う。
「まさか、あんな戯言を真に受けられるとは、思いませんでしたわ!しかもご丁寧に、陛下にまで告げ口して下さるとは。」
 書斎で言った事は、まぎれもない本音だったのに、もう怒りで頭がメチャクチャだった。
 彼の顔に、少しだけ困ったような表情が浮かんだ。
「書斎で君が言った事を、僕は誰にも言っていませんよ。」
「でしたら、どうして……!」
「人に頼らず自分で考えてみたらどうですか?」
「え……?」
 彼が嘘をつくとも思えない。だが、他には誰もいなかったはずなのに……。
「それはともかく、そろそろ始めましょうか。」
 冷たい笑みを取り戻したヘルマンが、寝台に片膝を乗せる。
 新たにかかった二人目の体重に、マットレスがわずかにかしいだ。

 そっと伸ばされた手を、反射的にサーフィは払い除けようとしたが……
「力で押さえ込むような抱き方は、あまり好みではありませんよ。」
 なんなく枷のはまっていない左手首を掴まれ、壁に押さえつけられる。
 右手はサーフィの左手を押さえながら、ヘルマンは開いている左手でサーフィの顎を掴み、上を向かせる。
「快楽で蕩かすほうが、よほど互いに楽しめます。」
 吐息が唇にかかるほど間近で囁かれ、魅惑的なアイスブルーの瞳に、意識が縫いつけられる。
 抗う間もなく、唇を彼のそれで塞がれた。
「んっ」
 口移しに血を与えられた遠い記憶が、脳裏に一瞬だけ煌く。
 だがその優しい思い出は、唇を舌でなぞられ、ゾクゾクと広がる甘い淫靡な痺れにかき消された。
「んぅ……はっ……」
 顎をしっかり固定されたまま、ねぶるように舌で口内を蹂躙される。
 唇を甘噛みされ、侵入してきた器用な舌が、脅えて縮こまるサーフィの舌を誘い出し、吸い上げる。
「ふ……っ……」
 経験した事の無い甘ったるい感覚に、ブルッと背筋が震える。
 ヘルマンは何度も唇の角度を変えながら、上手に息つぎをさせる。
 それでも飲み込みきれなくて溢れ出した唾液が口はしから垂れてサーフィの顎を伝った。
「っはぁ……はぁ……」
 ようやく深いキスから開放された頃には、身体からクニャリと力が抜け、離された手首も、力なくシーツに落ちる。


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