君の一番欲しい物。についての記述。-3
十八歳の誕生日を、サーフィはまるで喜ぶ気になれなかった。
死刑執行台へのカウントダウンの気分だ。
正式に愛人となってしまえば、今まで以上に自由には歩けなくなり、男性と二人で会うことも許されなくなる。
そうなれば、ヘルマンの元を訪れることすら、禁止されるだろう。今でさえ、こうやって訪れる事ができるのは、彼がサーフィの師だからだ。
剣以外に、語学や作法についても、彼からさまざまな事を学んだ。
ヘルマンはあらゆる分野において博識で、大抵の事は何でも月並み以上にうまくこなす。
時々、この方のできない事は、何一つないのではないかと、思うくらいだ。
それでも、五年前のあの質問にだけは、未だに答えを貰っていない。
けれど、出来れば一生答えないで欲しい……そう密かに願ってしまう。
日に日に、想いは募っていく。ヘルマンがとても好きだ。好きで好きで、どうしようもない。
だからこそ、つい思ってしまう。
どうせ十八になったと同時に慰み者にされる運命なら……一度でも良い。
せめてヘルマンに抱きしめられたい。
真似事でもいいから、愛して欲しい。
先ほど、『一番欲しい物は？』と聞かれた時に、あやうくそう答える所だった。
羞恥心と、迷惑をかけたくないという気持ちが、やっとサーフィの口を閉ざしたのだ。
それでも……
「どうしました？」
真っ赤に頬を染め、立ち尽くしているサーフィに、ヘルマンが首を傾げる。
――再び交差した視線を、どうしても離せない。
どうしよう……。
もしかしたら、ここに来るのは、これが最後かもしれない。
「わ……わたし……は……」
サーフィの意志とは無関係に、震える唇が声を紡ぐ。
「ヘルマンさま……愛しています…………」
そこまで言ってしまってから、やっと我に返った。
ヘルマンが、とても奇妙な表情をしていた。
怒りと困惑がないまぜになっているような顔で、黙ってサーフィを眺めている。
「申し訳ございません！戯言と、お忘れください！！」
引きつった声で叫び、書斎を飛び出した。
そのまま振り向きもしないで、一目散に自室へ駆け戻る。
カダムの元に行かなくてはならなかったが、とてもすぐに平静には戻れなかった。
「ぅ……うく……」
軽蔑された……。そう思うと、恥ずかしくて情けなくて、このまま消えたくなる。
口を手で覆って、ひたすら嗚咽を押し殺し、侍女がつっけんどんに呼びに来るまで、そのまま泣き続けた。
「陛下がお呼びですよ！さっさとしてください！」
棘だらけの言葉にせっつかれ、サーフィは玉座の間に向かった。ドレスの腰帯には、竜の姿を刻印した黒い鞘の刀が留まっている。一歩一歩が、粘つく床を歩くように足取りが重い。カダムの元へ行くのが、嫌で仕方ない。
――夢の件で、ヘルマンに嘘をついてしまった。