君の一番欲しい物。についての記述。-2
思いがけない質問だったのだろう。サーフィの眼が丸くなる。
早いもので、サーフィは二週間後には十八歳だ。
美しく凛々しい顔立ちは、十八年前にヘルマンが見た彼女の母を、そのままに受け継いでいた。
クセの無い白銀の艶やかな髪はふくらはぎまで伸び、ドレスの上からでもはっきりわかるほど、成熟した女性の体型へとなりつつある。
護衛剣士として鍛え上げているせいか、バツグンのプロポーションだった。
胸は大きくツンと張り出し、腰は細くくびれ、見事な曲線をつくりだしていた。コルセットを付けてなかったにしても、十分に誇れる肢体だろう。背は高く、今ではヘルマンと並んでも頭半分ほどしか違わない。
しかし、血を飲まねばならない体質は、相変わらずだし、吸血姫と呼ばれ、忌み嫌われる点も、昔と同じだった。
サーフィの内面も変わらず、今もわずかな時間になるとヘルマンの家を訪る。
邪魔をするわけでも、必要以上に話しかけるわけでもなく、ひっそり……ここにいるだけで幸せなのだと、その表情が物語っている。
一方ヘルマンはというと、外見は十八年前から変わらず、二十代の青年のままだ。
そして、内面はというと……
「せっかくでしたら、君の一番欲しい物を贈りたいですからね。」
こんな事を誰かに尋ねる日が来るとは、まったく自分も変わったものだ、と内心で呆れながら、そう付け加えた。
サーフィの誕生日当日は、毎年パーティーが開かれる。
内輪とは言え、それなりに豪華な夜会だ。
ヘルマンも招待されていた。
普段なら、人の集まる所には極力出ないようにしているが、サーフィが望むから、毎年出席している。
そして、今年の誕生日プレゼントを何にするかという課題に、なんと三ヶ月も前から頭を悩ませているのだ。
相手の年齢や性別、趣向さえ知っていれば、無難な贈り物のチョイスには迷わない。
今までサーフィにも、そうやって選んだ品を贈っていた。
珍しい菓子の詰め合わせだったり、凝った仕掛けの美しいオルゴールだったり……どれも、サーフィはとても喜んでくれた。
けれど、どうにも物足りないのだ。なぜか、贈る側のヘルマンが。
万人受けする無難な贈り物ではなく、彼女が本当に望むものを、贈りたい。
……ところが、そう考えた途端、何を渡せばいいのか、全く解らなくなってしまった。
「私の一番欲しいもの…………。」
「はい。僕が贈れるものでしたら、何でもどうぞ。」
「―――ヘルマンさまが、くださるのでしたら、何でも嬉しいです。」
「あはは、それは困りましたね。」
何か迷っているようなサーフィに、もう少し水を向ける。
「本当に何でも良いのですか?」
「……。」
カチリ、と視線が一瞬交差した。真紅の瞳が、すがりつくようにヘルマンを見つめ、すぐにそらされた。
「……きっと、困らせてしまうだけだと思います。」
「それは聞いてみてからでなければ、解りませんよ?」
「―――本当に、何でも嬉しいのです。」
とても寂しげに、サーフィは笑った。
「それでは、また欲しいものが出来たら、教えてくださいね。今年の誕生日に間に合わずとも、あれは毎年やってくるものですからね。」
「フフ、おねだりするものを、考えておきます。」
珍しく、冗談めかした口調でサーフィは答え、今度は本当に嬉しそうに笑った。
その時ちょうど、城の鐘が時を告げた。
サーフィがあわてて立ち上がり、ドレスのスカートを直す。
「送りますよ。」
ヘルマンも椅子から立ち上がり、手を差し伸べた。
――もう一度、眼があった。