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氷炎の舞踏曲
【ファンタジー 官能小説】

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吸血姫のささやかな夢、についての記述。-8

 その夜、王宮では春を祝う舞踏会が開かれた。

 国の貴族達はもちろん、近隣諸国の使者も大勢招待され、見事な庭を見渡せる二階のテラスと大広間が、華やかに着飾った貴人で埋め尽くされる。
 サーフィも夜会用のドレスを着て、刀を腰につけ、国王夫妻の座る玉座の一歩後に立つ。
 幸いにも顔にはケガを負っておらず、ヘルマンは手当てしてある箇所が目立たないよう、上手に処置をしてくれていた。
 会場を全て見渡せながら、決して混じらない……この玉座の後が、夜会における、サーフィの指定席だ。
 もちろんダンスの教育もされているし、余興として誰かと踊るよう、命じられる事もある。
 だが、カダムに気紛れに指定され、自分のお相手を務める男性が、いつも必死に恐怖を押し隠しているのは、震える手が十分に伝えていた。
 サーフィにとってダンスは、『社会と交流を深める、略して“社交”。』 ではなく、孤独を再確認させられる儀式だ。
 ホールに、ヘルマンの姿は無かった。
 単なるお抱え錬金術師なら、使用人に分類されるのだが、彼は北国の使者という立場も持っている。
 こういった夜会にも、出席を許されているはずだが、どうやら彼は夜会が嫌いらしい。
 情報収集などで、必要と判断すれば来るが、滅多に顔を見せない。 
 そして……これは大した事ではないが、彼が踊っている姿は、一度も見た事がなかった。

 大陸のほとんどの国では、女性から男性にダンスを申し込むのは無作法とされていたから、男性は自分が誘わない限りは、踊らずに済む。
 何でもできる方だから、ダンスもできないはずはないと思うが、ひょっとしたら彼にも、一つくらい『できない事』があってもいいのかもしれない。
 そんな考えが頭に浮かんで、サーフィは思わず緩みそうになった口元を、あわててひきしめる。

 ダンスの踊れないヘルマンなんて、想像もできないが、全てを一人で完璧に出来るより、なぜかそっちの方が魅力的な気がした。



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