愛妻料理とまぶたの奥-1
優羽の用意してくれた食事は、それはそれは豪華なものだった。
メニューとしてはごく一般的な家庭料理だが、品数が多いし一品一品とても美味しい。数十分で出来るような料理とはとうてい考えられず驚いていると、うちに来る前に事前に下ごしらえをしていたこと、男の一人暮らしにはなさそうな調味料を用意してくれていたことを教えてくれた。
合点がいったが、それも優羽の実力あってのものなんだろう。
一人暮らしを初めて6年目。就活に敗けた後ろめたさで1年以上帰省していない俺としては、深々とお礼を言ってしまう程だった。
「…大したことじゃないです。妻ですから。」
しかし優羽から返ってきた言葉は、意外な程ぶっきらぼう。
大げさって捉えられたか?そう思って顔を上げると、すぐにそうでないことがわかった。俺から視線を逸らして箸を口に運んでいるけど…
『…優羽さん、口元緩んでますね。』
「えっ!…わ…っ!」
一瞬ハッと目を大きくさせたかと思うと、何も言わずにまた目線を横にずらして頬を手で覆う優羽。でも隠すのはもう遅いし、同じく真っ赤になっている耳は隠しきれていない。
『―――ははっ!照れすぎ!』
「〜〜〜もー!言わないで下さいよ!」
そんな楽しい夕食だった。それが済めば二人で狭いキッチンに並び後片づけ。俺がやります、と言っても、優羽は“二人でやることに意味があるんですよ”と彼女なりの夫婦論を真剣な表情で口にした。まさかこんなちっぽけなことで真面目発言が出るとは。思わず口が綻んでしまった。
相手が優羽なら、三日間楽しく過ごせるかもしれない。
―――なんて、数分前まで思っていたのに。俺はどこまで甘いのだろう。
(ぅあ、何だよこの硬さ…)
現在、優羽はシャワーに入っている。
俺はというと、浴室から聞こえるその水音だけで、恥ずかしくも下半身を怒張させてしまっていた。
シャワーホースを通して小さな穴から勢い良く出る水音は、当たる物質やそれとの距離で随分と変わる。その音を鳴らしているのが裸の優羽だと思うと…
(スタイル良さそうだったよな、優羽さん…)
…うーん、シャワーの音ってこんなエロかったっけ?そんなくだらないなことを考えては、切ない痛みがソコから背中に響いた。
テレビの音量を上げても、耳は浴室から聞こえる音ばかり拾ってしまってどうしようもない。
優羽がシャワーから上がるまでおそらくあと十分は…いや、女性だからもう少しかかるか?どちらにせよ、その間に理性が本能に打ち勝てるとは思えなかった。
優羽さん、すみません…心の中で謝罪し、トイレのドアノブを引くことを決意した。