愛妻料理とまぶたの奥-4
“やぁ…はやく奥まできて…”
“んじゃ、こっち向いて…”
あの子は強い快楽を得ることが好きだった。よって、好きな体位は深いところまでよく届くバック。
一方俺は、当時はフリーセックスなんて言葉は知らなかったが、射精よりも二人で繋がっている時を過ごすが好きだった。あの子も艶かしいからだのラインをうしろから眺めることももちろん好きだが、からだを密着させ目を見つめ互いにキスし合う、慈しむ時間に重きを置いていた。
このような見解の相違から、最初はバック、あの子がねだってからは顔を見合わせることの出来る体位にすることも、いつの間にか習慣になっていた。
あの子がなぜバックが好きだったか、それを知るのはずっと後のこと。
“…ッく、ハ、優羽さん、好きだよ。すっげー好き…”
“あ、ぅ、すご…深いィ…あんっ、ア!”
最奥を突く前にキスをすると、優羽は俺の下顎角を両手で包んだ。その腕はすぐに俺の首にまわり、俺の鎖骨に顔を埋める。
俺も優羽の腰を強く引き寄せると、深く挿入できるように彼女の片脚を上げた。
“ン、優羽さん…もうイキそう…!”
“わ、たしもォ!あっ、ん、あ…や、あ…!”
『―――……ぁ…優羽さん…優羽…―――んん…んっ!』
―――目を開けると、そこは現実。
ここは風呂場じゃなくてトイレだし、目の前に優羽の濡れた美しい肢体もない。彼女の下腹部に吐き出した筈の精液はすべて便器へ。自分の荒い息づかいだけが小さな個室に響いていた。
熱が冷めれば、残るのは虚無感と罪悪感。ここ数年は自分で処理していたが、この虚しさは未だに慣れない。優羽さん…オカズにしちゃってすみません。ホンットごめんなさい。
(…でもなー。仕方ないよな、こればっかりは。)
むしろ、こうしておかなきゃ三日間もひとつ屋根の下…というか同じ部屋で生活なんてやっていけそうもない。草食系と言えど、俺だって男だし。そうそう、トラブルは早期対処、早期解決に限る。優羽さんに対する罪悪感なんて、分身と一緒にトイレに流してしまおう。ついでに消臭スプレーもかけてしまえばホラ、完璧な証拠隠滅。
誰に言うわけでもない自己弁護を頭の中で並べ立て、トイレを出ようと扉を開けた……時。俺の足の数歩先に、小さな小さな脚がふたつ………へ…?
「あの…すみません…聴くつもりではなかったんですが……」
『……ぇ……?』
視線を上へ上げると、お風呂上りにも関わらず化粧でもしてるかのようにパッチリとした目の優羽。でも表情は強張っている。苦笑いも出来ないといったような表情で。
『は、はは…―――……え?』
―――夜はまだ、明けそうにない。