Re:〜前編〜-7
「うぅ〜……あぁっ!!」
しかし、1週間もたつとキャラは辞書を投げ捨てて不貞腐れた。
「なんだ?」
飛んできた辞書を受け止めたアースは机に突っ伏しているキャラに目を向ける。
「も、や」
短い言葉の意味は『もう、嫌だ』と言う事らしい。
勉強嫌いのキャラが一番の苦手分野に1週間も取り組んだのだ……そろそろ気晴らしも必要だろう。
「どっか行くか?」
都合良く今日は休みだ……アースは辞書を机に置いてキャラに聞いた。
「く」
またまた短い言葉で『行く』と返事したキャラは、サガンの本を閉じてその上に辞書を乗せ、着替える為に寝室に入って行った。
特に物欲が無いキャラを城下町に連れて行ってもブラブラするだけになるので、アースは隣国セブとの国境いの街に連れて来た。
移動に魔法は使わず馬で、服装も地味にして身分がバレないようにしておく。
「?」
連れられるがままになっていたキャラは、馬を宿屋に預けるアースを見て首を傾げた。
「ここからセブにちょっと入った場所でな、闇市があるんだ」
宿屋の親父に多めに金を渡して、間違っても馬を売り飛ばしたりしないように手を打っておいたアースはジャケットのフードを被って、キャラにもフードを被らせる。
「それが?」
やっと人並みに言葉を発するようになったキャラの耳に、アースは口を寄せた。
「今日の闇市のメインは……武器だ」
「本当?!」
囁かれた内容に一気に色めきだったキャラにアースは思わず苦笑する。
お姫様のクセに武器コレクションが趣味。
そんなキャラを喜ばせるのには一筋縄では行かないのだ。
国境から歩いて30分もしない場所で闇市は開かれていた。
値段もいいが、質がいいのが揃っているここの闇市はアースも良く利用している。
値段は交渉次第でどうにかなるし、その駆け引きも楽しみのひとつだ。
「アース。あっち見たい」
「おう」
沢山の露店を覗いて回るキャラの目はキラキラしていて、まるでお祭りに来た子供の様。
しかし、手に持っているのは切れ味が鋭そうなダガーだったりするのだが……。
今、彼女が熱心に見ているのはチャクラムという武器。
円盤の中に穴が開いていて、外側は刃になっている。
穴に指を入れて投げる、投武器には珍しい切りつけるタイプだ。