知らなかった頃聞いた声-1
暗闇から聞こえた声。
その声は背中から響いた。ねぼけながら寝返りを打って、探ってみた。
じわりじわりと広がる、不安と恐怖。
涙を止めることはできなくて、口に手を当てながら声を押し殺した。
その声が、それから自分の一番怖い物になった。
夜に目覚めてしまわないように昼は遊び回ったし、寝る前に水分を取らないようにした。
それでもたまに聞こえてしまった時は、ただ泣いて、時が過ぎるのを待った。
中学生になると部屋を与えられて、その部屋にあの声は届かなくて、軽蔑や涙は、いつしか薄れていった。
私も大人になって、あれほど嫌いだったあの声を出すようになった。
知ってしまえばなんてことないけれど、それでも、あの頃の私がまだ心の中に小さく居座ってる。
汚いよ、て震える声で責める。
知らないからこそ嫌いだったはずなのに、知っても好きにはなれなかった。もっと知れば、好きになれる?もっと知れば、あの頃の私は好きになってくれる?
私は今日もあの声を出す。こうやって、どこかで言い訳しながら。
なんだかんだで結局好きなんでしょ、とあの頃の自分に囁かれたけど、私は構わず声を上げ続けていた。