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Inner train
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Inner train-1

その列車は、まだ来ない。
私は駅の構内のベンチに座って考える。
一体いつから、私は待っているのだろうか。一体いつまで、私は待てばいいのだろうか。
辺りを見まわすけれど、やはり時刻表も時計も無い。どこに行くのかも分からない列車を、私はただ待っている。
空は、幾度目かの赤。

そういえば、こうしてぼんやりと空を眺めるのも、随分と久しぶりだ。日々の喧騒に飲まれ、あわただしい時間の流れに忙殺される日常。それに愛想が尽きた私。
空は、幾度目かの赤。
これが夕焼けなのか朝焼けなのかも気にならないほど、ゆったりとした空間。それに浸る。二度と巡り会えないであろうこの時間たちと戯れるように。

私は駅員に尋ねた。
「列車はいつ来るのですか?」
彼は答える。
「貴方の望むときに。」
「列車はどこに向かうのですか?」
「貴方の望む場所へ。」

そんな、いつか交わしたやりとり。その答えが、今は分かる。
私は目を閉じて、柔らかな風が運んでくる過去に身を預けた。
そこには自由を疑わない私がいて。自分を疑わない私がいた。とても純真で、ある意味最盛の時。
あの頃、私が描いていた夢は何だったであろうか。できるのならば、その夢の続きを。
私は目を開けた。日は既に暮れ、真っ暗な闇があった。けれども気にはならない。
今の私の目には輝きがある。だから今、その夢の続きを。
ゴーーー
闇を切り裂いて列車が近づいてきた。
行き先は、もう分かっている。私はその列車に乗り込んだ。列車の中から駅を見遣る。
どれだけ私は迷っていたのだろう。
それは一瞬だったかもしれないし、とても長い時間だったかもしれない。
どちらにせよ、無駄ではなかったことは確か。
こうして私は、途切れていたものを追い続けることができるのだから。たとえ辿り着けなかったとしても、終わりはおそらく笑顔とともに。

私を乗せた列車は、駅を離れていった。
その駅に、駅員はいない。


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