淫惑の手-1
なんて素敵な手だろう。見るたび、いつも思う。あの手で、あの指でこの肌に触れられたなら、どんなに素敵だろうかと。
男の人らしいごつごつとした指。でもそれはとっても繊細に動く。キャンバスの上を、それは自由に奔放に。さまざまな色の饗宴。彼の絵は見る人の心をつかまずにはおかない。
ときにはその指で直接、キャンバスに絵具をべったりとなすりつける。それがまた、素晴らしい作品を構成する要素となっているから不思議。
ああ、あの手。あの手で。
「描けた?」
私はハッと我にかえる。目の前には真っ白なキャンバス。真一さんはため息をつく。
「受験、もうすぐなんだろう?」
そう。あと2カ月で大学の入学試験が始まる。私の希望は美術方面で、入試までのしばらくの間、親戚の真一さんに絵を習っている。真一さんは、私の叔父にあたる40代の男性だ。おじさんと呼ばれるのをいやがり、私にも幼いころから名前で呼ばせている。