淫惑の手-2
この叔父の描く絵はそこそこに高く売れているらしく、画家として生計を立てている。芸術家にありがちな偏屈さがあるせいか、一度も結婚することなく現在までひとり暮らしを貫いている。そのわりにはいつ来ても部屋が散らかっていることは無いから、もしかしたらナイショの彼女がいるのかもしれないな、なんて勝手に思っている。
「頑張って描かなきゃ。マリちゃんが合格しなかったら僕が姉さんに叱られるから」
姉さん、というのは私の母だ。真一さんはすごく優しいのに、母はちっとも優しくない。姉弟とは思えないくらい性格が違う。真一さんはアハハ、と笑って外を見る。
「もう暗くなってきたね。今日は晩御飯食べてから、また頑張る?」
はい、と私はうなずいた。晩御飯の後、真一さんは絵を描くということがいかに楽しく素晴らしいことであるかを、お酒を飲みながらそれは楽しそうに話してくれた。こうして絵の話をするときの真一さんはとても素敵に思える。身振りを交えて話すときの手の動きは、思わずみとれてしまうほど。
「ああ、未成年だけどちょっとくらいいいよね?」
真一さんが私のグラスにビールを注ぐ。これまでにも友達と何度か飲んだことがある。あまりおいしいとは思わなかったけれど、私は真一さんにすすめられるままにビールを飲んだ。