〈四季の舘〉祈り〜櫻並木の唄〜-10
幼稚舎からの教えを破いてまで、走ってきてくれた。
「お姉さまと私の喧嘩は、珍しくないわ」
にこっ、と笑う。
汗で、前髪が額に張り付いている。
「七穂さまっ」
ぎゅっと七穂さまに抱きつく。
ー大好きです。
「・・・絢華、」
ぽん、と頭に手を置かれる。七穂さまは、私より10センチほど背が高いので、首を伸ばさないと七穂さまが見えない。
「私があなたを妹にしなかったのは、私が弱かったから。絢華には、何の咎もないわ」
「七穂さまっ、でもっ」
「お姉さまの言う通り
、怖かったのよ。あなたに大任を押し付けるようでー・・・」
「そんなっ、そんなことありませんっ。七穂さまが、少しでも私を妹に、と思ってくれただけで嬉しいんですっ!!例え、他の人を妹にしても・・・」
「絢華、」
す、と七穂さまが自分のロザリオをはずした。
「受け取ってくれる?」
「七穂さま・・・」
ロザリオの授受は、姉妹の証。
「私で、良いんですか?」
「あなたが良いのよ」
ふ、と七穂さまが微笑んだ。
「ありがとうございます・・・お姉さま」
「架けても良いかしら?」
「はい」
ー不思議。お姉さまが居ることが、こんなに嬉しいことなんて。
「お姉さま、お願いをしても良いですか?」
「なに?」
「『マリア様の心』を教えてくれませんか?」
七穂さまは、驚いた様に私を見た後、
「いいわよ」
にっこりと笑った。
制服の下にはお姉さまのロザリオ。
櫻並木の中をお姉さまと一緒に歩く。
ー覚えたばかりの歌を唄いながら・・・
完