F-9
※「♪緑の丘の赤い屋根〜とんがり帽子の時計台〜鐘が鳴りますキーンコーンカーン♪メエメエ子やぎも鳴いてます〜……」
自然と笑い声が挙がった。
※「復員した修平が、弟の修吉を探しに行くんです。そこで、修吉のいる孤児収容所で、沢山の戦災孤児を目の当たりにする。
あの頃は、本当に浮浪児が東京の街には溢れてましたから、とても臨場感を覚えたものです」
※「……やがて修平は、そんな戦災孤児逹の、安住の場を求めて信州に施設を作ろうと奮闘する。あれも素晴らしい作品でしたわ」
「でも、当時、私は教育学部に在籍していましたが、あの番組は御法度だったんですよ」
「そんな!あんな良い番組なのに」
「使われる台詞が教育上よろしくないとかで、上からのお達しが来ていました」
「でも、聞いていたんですね!」
「勿論!逆に子供逹に聞かせるべきなのに、穿った見方しか出来ない教育委員会の方がおかしいんですッ」
その後も、二人は懐かしい話に花を咲かせて酒を酌み交わした。
そして、何時の間にか、眠ってしまった。
翌朝
「は、はくしょん!」
朝早く、雛子は余りの寒さから目覚めた。開いた目の先に、背中らしき物が見えた。
「ひッ!」
恐怖が先立ち、雛子は目覚めたばかりの身体でにじり下がる。その瞬間、頭に鋭い痛みが疾った。
「……痛たたた。何、これ?」
自分のいる場所に気付き、雛子は唖然となった。
ちゃぶ台の上は散らかったままで、その向こうに林田が寝ていたのだ。
「……そうか。二人でお酒を呑んで、そのまま寝ちゃったんだ」
ようやく事態を把握して、雛子は怖くなった。いくらお酒が美味しかったとはいえ、そのまま男性を泊めてしまうとは、だらしなさ過ぎる。
「と、とにかく、学校行く準備しなきゃ!」
雛子は林田を起こしに掛かった。
「ちょっと!先生ッ、林田先生、起きて下さいッ」
「うん……もう少し」
「寝惚けないで下さい!ほら、早くッ」
耳許で強かに怒鳴られ、身体を揺すられて、ようやく林田も目覚めた。
「おはようございます……あれ?此所は」
「私の家です!先生も私も、酔ったまま寝ちゃったんですよ」
「ええッ!」
事態のあらましを聞かされ、林田はすっかり動揺してしまった。
「と、とりあえず私は椎葉さん家に帰ります。変に勘繰られちゃ困るからッ」
「そ、そうですね」
林田は酒瓶を抱えて茶の間から土間に降り、履いてきたズックを突っ掛けると、雛子の方を見て微笑んだ。