F-10
「いやあ、実に愉快な酒でした。また遊びに来てもいいですか?」
問いかけに、雛子は笑いながら首を横に振った。
「遊びに来るのはいいですけど、夜に来るのとお酒は駄目です」
「どうして?」
「今日みたいになるのは懲り々なんです。昼間から歓迎しますよ」
「ちぇッ!いい呑み相手が出来たと思ったのに」
林田は一瞬、残念そうにするが、すぐに元の人懐っこい顔なった。
雛子に見送られて玄関に差し掛かった時、振り返ると「あ!それと、もうひとつ」と、思い出した様に言った。
「まだ、あるんですか?」
「雛子先生って、呼んでもいいですか?」
「えっ?」
「いや、河野先生じゃ堅苦しくて。子供逹もそう呼んでるし……」
雛子はため息を吐いた。
林田の子供っぽい発想に呆れたのだ。
「どうぞ。林田先生のお好きな様に呼んで下さい」
「良かった!じゃあ、また雛子先生」
林田は帰って行った。
雛子は、その後ろ姿を暫く眺めていた。
(変わった人。父や校長先生、研修先で出会ったどの先生とも違う。捉えどころが無いと言うか、子供と大人が同居してると言うか……)
最悪の出逢いだったのが、昨日一日の出来事で、全て払拭されてしまった。
「さて!私も急がないとッ」
宿酔いで気分は悪いのだが、心は清々しい雛子であった。
「a village」F完
※印の付いた台詞は、映画及びラジオ番組を取り上げたものです。
尚、著作権者は以下の通りです。
・作品@:二十四の瞳(映画)
・原作者:壺井栄(小説)
・配給元:松竹
・監督 :木下恵介
・作品A:鐘の鳴る丘(ラジオ番組)
・番組制作:NHK
・作品B:とんがり帽子(歌)・作詞 :菊田一夫
・作曲 :古関裕而