少年-1
少年が、閑静な住宅街の路地をよろよろと、歩いている。
疲労困憊といった様子だ。
気のせいか、わずかに見える少年の真っ白な肌が、赤く火傷をしたようになっている。
少年は恨めしそうに、サングラスをした顔を、太陽に向けた。
そんな少年の前に、乳母車を押して歩く、若い人妻と思しき姿があった。
清潔感のあるショートカットに、白いワンピースを着ている。
小さな顔は、人妻とは思えないようなあどけない顔立ちで、うっすら微笑んでいる。
その顔は少年ではなく、乳母車の中の赤子に向けられていた。
その母子と少年が、今すれ違いそうになった。
「あの、すいません……」
「はい?」
少年はガクリと片膝を折り、地面に倒れかけた。
それが、少年による芝居かどうかは、よくわからない。
「まぁ、何か体調が悪いんですか?」
「ええ、少し体がフラフラするんですよね、どこか休めそうな場所、ありませんか?」
「それなら……わたしのアパート、すぐそこですけど、歩けますか?」
「ええ……でも、いいんですか?」
「少し休んで、それから病院に行くといいわ」
「すいません、ちょっとその言葉に甘えさせてもらいます」
「もうすぐですから」
少年は頭を下げて、のろのろと若妻の後に付き従った。
麦わら帽に厚手のコート、サングラス。
異様な扮装をしている少年に、若妻は何も疑う様子がない。
ただ体調不良の少年を、善意で世話してやろうと考えているのか。
若妻のアパートは本当に目と鼻の先で、着くとドアの鍵を開け、子供を抱えて少年を誘導する。