少年-2
「さあ、入って、休んでください」
「どうも、失礼します」
表札には3人の名前、その中に女性のヒトミという名が書いてあった。
中は少々狭かったが、小綺麗にしてある。
赤ん坊が動きまわっても危なくないようにという配慮が行き届いているようだった。
人妻が、少年に冷たい麦茶を差し出した。
少年は、軽く頭を下げてその麦茶を受けとり、飲み干した。
「ふぅ……生き返りました。ありがとうございます」
「どういたしまして。具合の方は、大丈夫?」
「ええ、おかげさまで。お名前は、ヒトミさんというんですか?」
「はい、そうです」
「子供さん、いらっしゃるんですよね。随分、お若く見えますけど」
「わたし、成人したばかりですから。主人とは、高校を卒業してすぐ結婚したの」
「へぇ……じゃあ、僕と2つしか変わらないんですね。羨ましいな」
「そうなのかしらね」
「どんな旦那さんなんですか?」
「恥ずかしい話なんですけど、わたしの高校の頃の担任なんですよ」
「え? じゃあ、高校の頃からの付き合いなんですか?」
「ええ、わたし、学級委員してたんですけど、付き合ってくれって言われて」
「そのまま付き合っちゃったんですか? そりゃあ、犯罪的な旦那さんだな」
「わたし、あんまり男の人知らなくて、そのまま成り行きでこうなったのよ」
「参ったな、たった2つ上の可愛い子が、それで結婚しちゃうとはね」
「わたしも最初は不安だったけど、子供もできたし、夫も真面目に働いてくれてるからいいのかなって思って」
「そりゃあ、それで働かなかったら、本当の犯罪者ですよね」
「ふふ、そうね」
「僕も、ヒトミさんや旦那さんみたいに、幸せになれますかね?」
「わたしが幸せかわからないけど、なれるんじゃないかな?」
「ヒトミさんは、優しいんですね」
その時、外からパトカーのサイレン音が鳴り響く。
と同時に、付近の住人に警戒を呼びかける旨のアナウンスが聞こえた。
少年は、何か表情を変えるでもなく、泰然としている。