バッドエンドロール-1
翔のすきなひとがお姉ちゃんじゃなかったら。
何度も、考えた。
何度も何度も、吐きそうなほど考えた。
でもね、やっぱり思うんだ。
結局、私じゃない誰かを見続ける翔をいちばんちかくでみなきゃいけないなら、その人がだれよりも素敵な人だって私自身も胸をはれる、お姉ちゃんでまだよかったのかもしれないって。
「杏ちゃん」
「アズ」
お姉ちゃんと翔。
二人とも比べられないくらいどちらも大切で、二人とも私なんか霞むほど素敵で。
お姉ちゃんで、よかった。
そうでも思わなきゃ私のこの体中に血よりも濃く流れるどろどろとしたほの暗いものに飲み込まれてしまいそうだった。
だから、もう思い知ってる。思い知るしかなかった。
私の王子様は私を選ばない。
確かなのは、翔のとなりに並ぶのが誰であろうと、私にハッピーエンドは来ないということだけで。
それに私は自分がもう物語のお姫様になんてなれないのをわかっていた。
私がもし、お姫様になれるとしたら、それは翔以外の人と結ばれる、ということを受け入れてしまった時だろう。
私は、まだ、ずっと、どうしてか翔を諦められなくて。
だってずっといっしょに生きてきた。
息をするように、食事をするように、眠るように当たり前に共にあった。
いくら報われなくても、私だけの宝物だったから。
みっともないほどこの恋だけに生きすぎたんだもの。
今さら、どうして忘れられるだろう。
今さら、どうして翔以外の人をこんなにも好きになれるだろう。
もういっそ呪いみたいに強すぎる鮮やかな想いは今ではもう汚らしいだけのものでしかないだろう。
だからかな。
私の王子様のいる物語の中で、私がなれるのは、――意地悪な魔女だけ。
ハッピーエンドに必要ない、魔女だけなのだから。