バッドエンドロール-6
「何が『アン』の親友だよ。アンズなんて呼び間違えていいのは俺だけだ」
私への慣れない呼び名で彼女の空気が変わった。
そして、その言葉でわかってしまった。
翔はわかったんだ。
――私と彼女の『本当の』関係を。
――彼女の『目的』を。
彼女はわかったんだ。
――私がアンズでなくアンという名前だと。
――自分は好きな人の幼馴染みの名前を間違えたことを。
そして、――翔がもう彼女を好きにならないことを。
だってそれは彼女が好きな人とのステップアップや手段のために選んだ脇役の『アンズ』としてしか私を見ていなかったからで。
いうならばらちゃんと人間と しての感情をもつ一人の人として、『アン』として私を扱っていないことを、よりによって翔の前で自ら露呈したのだ。
それでどうして翔が怒るのかだなんてわかりきってる。
翔は彼女の好きな人の前に、私の幼馴染みなのだから。
律儀な翔があえて愛称で呼ぶほどには大切に思う幼馴染みなのだから。
柔らかな雰囲気をなくし彼女を一睨みして立ち去る翔が繋いでくれた指先の、めずらしく乱暴なほどつよく握られる熱を感じながら、私は醜く歓喜したんだもの。
翔が、私のために怒ってくれた。
あの子に一矢報いれた。
昔みたいに助けてくれた。
何より……私のこと、アンって呼んでくれた。
翔は滅多にわたしをちゃんとした呼び名で呼んでくれないから。
手を引かれる熱があれば私はなんだって耐えられると思った。
全部嬉しくて気持ちよくてどうにかなってしまいそうだった。
その後彼女が翔に近づくことはなかった。
でも私はそれからも彼女の視線が翔にあるのを知っていたし、私を見ると切なさにうつむくのもわかっていた。
だから罪悪感と、…確かな優越感に、一度翔に聞いたことがある。