べっ甲飴-1
トロリとした細く白い糸。
甘くもなければ、辛くもない味。
だけど少しだけ。そう、ほんの少しだけ。その味はべっ甲飴に似ていた。
「先生。ありがとう」
僕の前でお礼を言う君はとても美しかった。
出会ったときと何も変わらない。
美しい黒髪。切れ長の瞳。白くさわり心地のよさそうな頬。ふっくらとした唇は艶やかに紅く、日本人形のようだ。
「おめでとう。桃子さん」
「ありがとう。先生。本当に色々とありがとうございました」
白むく姿の彼女は深々とお辞儀をした。
その姿にもう二度と僕の元に彼女が帰ってこないのだと切ない気持になった。
僕は彼女を愛していた。叶わない恋だとわかっていたが、心のどこかでは淡い期待があった。
彼女の中で僕は特別な存在。
僕たちは愛し合っていると錯覚した。それも所詮体だけの繋がりだった。
今でも桃子さんの「さよなら」が頭から離れなかった。
引きとめることはできない。君はこの村で一番偉い人の娘で、僕は名もない村医者。
身分が違いすぎた。
僕は初めて出会ったときから君が好きだったんだ。