卒業式の前に-6
「わたしだってヒロキがいないとダメなんだから!!」
テーブルを思い切り叩いた。なんだかもう、ヒロキの相手の子に猛烈に腹が立ってきて、悔しくて、悲しくて、何か考えるよりも先に言葉が口から出ていた。
まわりに座っているほかのお客さんがジロジロとこっちを見てる。恥ずかしい。
ヒロキは、にやにや笑ってる。
「あはは、やきもち焼いた?」
「なにがおかしいのよ・・・」
「おまえ、どんだけ鈍感なんだよ。っていうか、俺が今日なんのためにスーツ着てきたと思ってるんだよ」
「はあ?」
ポケットの中をごそごそと探って、小さな紙袋を出してわたしに渡した。開けてみろというので袋の中をのぞいてみると、中には小さな銀色のリングが入っていた。いつか、雑貨屋さんで見た1000円のおもちゃのリング。
「今すぐじゃなくてもいいから、俺と結婚してほしいなって思って」
さっきとは違う涙が溢れてきた。顔も体も全身が熱くなって、言葉が見つからなくて、ただヒロキの顔とか頭をバシバシ叩いた。
「痛い、痛い!だってさ、卒業したら毎日は会えなくなるだろ?俺、チイに毎日会いたいもん。好きとかアイシテルとか、そんなのわかんねえけど、でもずっと一緒にいたいから」
「なによ、付き合ってもないのに、結婚とか、おかしくない?」
しゃくりあげながらわたしが言うと、ヒロキはちょっと驚いたような顔をした。
「ええっ、俺は付き合ってると思ってたんだけど・・・違うの?まさか、俺じゃ嫌なの?」
「嫌じゃ、ない・・・」
「じゃあ、俺のお嫁さんになってくれる?」
「うん・・・うん・・・」
ヒロキがテーブル越しにわたしを抱き締める。長い腕は思ったよりずっとかたくて、筋肉で引き締まってるっていうのは嘘じゃないかもしれないな、なんて思った。
「俺、今からおまえんちの親に挨拶に行く。だから、その後さあ」
「その後?」
「その・・・俺の部屋に来ないか」
顔を真っ赤にして言うヒロキの言葉に、わたしはしっかりと頷いた。もっと深くヒロキの腕の中に包まれたいと思っていた。そしてヒロキがどうしたいのかも、ちゃんと伝わってきた。
窓の外から差し込む日差しは、さっきよりもずっと眩しく感じられた。
(おわり)