卒業式の前に-5
目の前が暗くなる。ヒロキの恋愛の話なんてこれまで一回も聞いたこと無かった。友達の噂でも、ヒロキに彼女がいるなんてチラッとも出てこなかった。なのに、結婚?
相手はどんな子なの、とか、いつからそんな相手がいたの、とか聞きたいことは山ほどあった。でもわたしは動揺を押し殺して平静を装う。
「ふうん。それで?」
「いや、待てよ。そうじゃないだろ。相手の子はどんな子なのかとか、興味ないのかよ」
「別に」
ヒロキはちょっと傷ついたような顔をして、自分の頭を抱えて呻き声をあげた。
「うう・・・なんだこれ。ダメなのかなあ、おかしいなあ」
「なにやってんのよ。聞いてるから続けなさいよ」
深いため息のあと、ヒロキは再び姿勢を正して、なぜかネクタイを締め直して話し始めた。
「その子は、すごく俺のことをよくわかっていてくれる子なんだ」
「そう。よかったじゃない」
わたしよりもヒロキのことをわかってる女の子なんているのだろうか。言葉がどうしてもぶっきらぼうになる。ヒロキは笑う。
「怒るなって」
「怒ってない!!」
窓の外に視線をやる。午後の日差しは優しくて、もうそこまで春が来ているのを感じさせるのに、わたしの心の中はブリザードが吹き荒れている。
「まあ、聞いてくれよ。その子は特別に美人とかじゃないし、可愛くもないし、どんくさいし、歌は下手くそだし、愛想も悪くて言葉づかいもめちゃくちゃなんだけど」
「なにそれ、そんな子のどこがいいのよ」
「でもさ、一緒にいて安心できるっていうかさ。俺、そいつがいないとダメなんだよな」