第1話 主任-1
・・・・・・汚れの知らない身体・・・・・・私は至福と引き換えに、一つ一つを汚していく・・・・・・この瞬間を迎える為に・・・・・・
『はあ・・・はあ・・・小宮さん・・・僕・・・・・・』
『良いのよ・・・遠慮しないで・・・・・・』
小宮律子48歳・・・・・・。
若い肉体に包まれ激しく乱れていた・・・・・・。
お互いが生まれたままの姿で・・・・・・。
やがて、青い果実は熟した園に落ちて、愛する者を連呼しながら摘まれようとしていた・・・・・・・。
『はあ・・・はあ・・・小宮さん!・・・小宮さん!・・・こみや・・・さん・・・・・・』
・・・・・・こみや・・・・・・
「・・・・・・さん、それじゃあ来週の頭からお願いできますか?」
その三ヶ月前の、とある町工場の応接室。
向かい合わせの接客用のソファーに座る、灰色の上下の作業着に身を包んだ、眼鏡を掛けた中年の男が尋ねた。
「でも、私なんかあまり人望がありませんし、人の上に立てるかどうか・・・・・」
その向かい側には、上は白を基調とした青いストライプの入った作業服に、下はスカイブルーの作業ズボンを履いた、白い三角巾を被る律子が座って、怪訝そうな表情を浮かべて答えた。
「小宮さんなら大丈夫ですよ。それに、10年選手で一番若いのは小宮さんだし、どのポジションも経験なさってるから適任なんですよ」
十年選手とは、勤続十年以上のベテラン工員の事だった。
「それだったら、美幸さんの方が良いと思います。彼女だったら、年齢的にも私と変わりありませんし、それに他の従業員の方からも好かれてますから、人望もあると思うんです」
「まあ、確かに彼女も候補に挙がってたんですけど、宮下さんの件を考えるとどうしてもね・・・・・・。彼女も宮下さんと似ていて、少し狡すっからい所がありますからね」
宮下と言う四十代前半の女は、律子の勤める工場の現場主任だった。
約一週間ほど前に、その役職を利用して時間外手当の虚偽の申請をおこなった事が漏れてしまい、それを苦に自ら命を絶っていた。
そして律子は、その代わりを中年の男に願われていた。
中年の男の名は、大場浩之と言い、工場長だった。
年齢は三十代後半で、十年ほど前に勤めていた車販売店を退職してここに勤めた。
営業でこなした人徳を買われ、すぐに現在の役に付いた。
しかし、工場長としての人望もある反面、その立場を利用した若い女性工員との不規則な関係の噂が絶えなかった。
そんな大場に対しては律子も怪訝な気持ちがあったが、この時は致し方無く聞いていた。
「でも、工場内では彼女で決まりと噂が立っています。もし私なんかが選ばれたら・・・・・・」
律子は、美幸と言う女に怯えていた。
美幸は律子の二つ上の女で、勤続年数も上だった。
工場内では、リーダー的存在で他の工員も一目置いていた。
美幸に関しては特に親しくは無いが、だからと言って牽制し合う間柄でも無かった。
ただ、今回の件で律子が主任に選らばれる事になれば、美幸の矢面に立たされるのは確実だった。
「ふふ・・・大丈夫ですよ。何かあったら僕に言って下さい。最悪の場合は、律子さんの方を優先しますから」