終わりのない恥辱-1
「坂本さん、ねえ、ちょっと!聞いてる?ほら、誤字がいっぱいでしょ?こういうの困るのよね、社内の書類とはいってもこういうことからきちんとやってもらわないと、他の仕事もいつまでたっても任せられないでしょ!?」
狭い事務室の中で、40代の女性社員がキイキイと喚き立てている。その目の前でうなだれ、いまにも泣きそうな顔をしているのはマミ。足を小刻みに震わせながら、何度も「すみません」と繰り返す。
「ほんと、今の若い子って仕事に来てるっていう自覚あるのかしら?わたしたちの若いころはもうちょっと頑張ったものよ。あんたたちに難しい仕事なんて期待してないわ、でも書類の打ち込みくらいは出来るかと思ったのに……ほんと、なんにもできないのね」
「す、すみません、次から気をつけます」
「謝ればいいと思ってるの?いったい今週に入ってから同じことを何回言われているかわかってるの!?馬鹿なの?ねえ、文字を打ち込むだけの作業がどうしてできないの?見直しって言葉、このアタマには入って無いの?いいからさっさとやり直しなさいよ、ほら、はやく!」
ぼろぼろと涙をこぼしながらマミがパソコンの画面に向かう。みずきはそれを少し離れた席から確認しながらメールを一通送信する。直後、小さな電子音が聞こえ、マミが青い顔をしながら席を立った。
マミが事務室を出ていったあと、残った社員が顔を見合わせて心配そうに囁き合う。「大丈夫かな、最近元気ないよね」「たしかにミスも多いけど、あんな言い方は無いんじゃない」「ババア陰険すぎだよね、言い返してこないのわかってて言ってるもん」「あの子、ちょっと痩せた?ストレスかな」次々にあがる声にあわせ、もちろんみずきも皆と同じような表情で心配しているふりをする。こみあげてくる笑いを堪えながら。