A君-4
トモちゃんは表情を変えずに、淡々とした口調で続けた。
「それから、さえちゃんのこと、覚えてる?ほら、隣のクラスで、とっても美人だった」
さえちゃんのことはもちろん覚えている。同じクラスになったことはないけれど、成績はいつだって学年上位で、走るのも速かった。明るく活発な性格だったからか、学校中の男子からも女子からも人気があった。
でも、さえちゃんは2年生になってから、クラスでいじめにあっていたらしい。詳しくはわからないがとても陰湿ないじめで、それが3年生になってすぐ不幸な事件につながりさえちゃんは学校を辞めたときいている。
「わたし、さえちゃん嫌いだったの」
「え?」
初耳だった。わずかにトモちゃんの顔が歪んだような気がした。
「だって、許せないと思わない?私よりずっと美人で、頭もいいなんて、おかしいよね。だから私、A君にお願いしたの」
「お願い……って、何を?」
「うふふ、『さえちゃんがいると私、困っちゃうの。だから、お願い。さえちゃんを学校から消してほしいの』って」
「ちょ、ちょっとまって」
思わず立ち上がる。テーブルの上で冷めきったカフェオレがこぼれる。トモちゃんは止まらない。とても楽しい話でもしているように。あそこのチョコレートケーキおいしいのよ。今度食べにいかない?そんな調子で。
「A君はね、とってもいい子なの。だから2年生になって、友達を通じてさえちゃんのクラスでたくさん悪い噂を流してくれたわ。それから、上手に不良グループの女の子たちを使って、さえちゃんの居場所をなくして」
「えっ……」
「3年生の始業式の日、みんなをとっても上手にのせて、さえちゃんをぼろぼろにしてくれたわ。最後には何人もの男子が彼女の上にまたがって、楽しんだそうよ。だって仕方がないわよね。私より美人だなんて、困っちゃうもの」
「な……なに?トモちゃん、それ、いまの嘘よね?冗談よね?」
手のひらに厭な汗がにじむ。心臓が早鐘のように脈をうつ。トモちゃんは、私をたしなめるように、立ち上がったりしちゃだめよ、みんな見てるわ、と小声で言った。
「ユカちゃんに嘘なんてつかないよ。だってお友達でしょう?」