A君-3
二重まぶたのぱっちりとした大きな目を優しげに細めて微笑む。なんだろう。なんの話だろう。
得体のしれないちいさな不安が胸をよぎる。
「A君はね、私と同じ中学校でね、中学校のころから好きだったんだって」
私のことが、とトモちゃんはいたずらっぽく笑う。なんだ、今度は過去のノロケ話か。たしかにトモちゃんはよくモテた。明るくて、スタイルもよくて、かわいらしいトモちゃん。
放課後に校舎裏やアルバイト先で告白されている場面に何度か出くわしたこともある。懐かしい。自分の高校時代の甘酸っぱい思い出も同時に蘇ってくる。お互いの恋愛事情を打ち明け合ったりもしたものだ。もっともわたしは、失恋した話を聞いてもらう方が多かったけれど。
トモちゃんは続ける。
「A君はね、よく私のことを助けてくれたんだよ。たとえば、宿題を忘れたときとか」
宿題を忘れたときは、ノートを写させてくれたり。落としたコンタクトレンズを何時間も探してくれたり。
なるほど。たしかに好きな女の子のためなら、そういうのも楽しいかも。私はほほえましい気持ちで、トモちゃんの愛らしい声に耳を傾ける。
「それからね、あのネコのときも」
ネコ?ネコってなんだろう。
「ほら、自転車置き場のところでね、自転車のまわりによくオシッコされたりして困ってたじゃない?すごく臭くって、ほんとに嫌だったわ……覚えてない?」
よく覚えていない。でもそんなこともあったかもしれない。
「いつもね、同じネコだったのよ。私、見てたんだから間違いないわ。だからね、A君にお願いしたのよ。そうしたら、ちゃんと埋めてくれたの」
あの体育倉庫の裏側の茂みに。
一瞬、呼吸が止まる。ネコ?埋めた?どういうこと?意味がわからない。冗談なの?言いたいことは溢れかえっているのに、声がうまく出てこない。