A君-2
私とトモちゃんは高校時代の同級生で、いつも一緒に行動していた。
クラスは3年間同じで、アルバイト先も同じ。買い物も、遊びに行くのも、それからデートだって何度もお互いのパートナーを連れて一緒に出かけたことがある。
私はどちらかといえばひとりで行動するほうが好きだった。
でもいつの間にかトモちゃんが隣にいて、どこに行ってもなぜか一緒で、気がつくと私たちは周りから親友同士だと見られるようになった。実際にトモちゃんとのおしゃべりは楽しかったし、いつもにこにこ笑っている彼女の傍にいるのは悪い気持ちではなかった。
でも、私はあまり構われるのが好きなほうではなかった。どんなにトモちゃんが良い子でも、四六時中一緒にいると、ちょっと息苦しく感じてしまう。だから社会人になりトモちゃんと別々の職場で働くことが決まった時、正直ホッとしたような気持ちになった。
それでも1カ月に1回程度は、こうしてお誘いの連絡がある。いまは適度な距離感を持って、お互いの近況などを報告し合うような仲なのだ。
「ユカちゃんは覚えてる?ねえっ?」
トモちゃんはまた頬をふくらませて顔を近づけてくる。またどうせ聞いてなかったんだ、と私の鼻をつまんで怒る。私は笑ってトモちゃんの鼻をつまみかえす。
「ごめんごめん、ちょっと仕事で疲れててね。で、なんだっけ?」
トモちゃんは手を離してにっこりとほほ笑み、言った。
「A君のこと、覚えてる?」
A君か・・・私は頭の中のアルバムをペラペラとめくり、その顔を思い出す。ぽっちゃりとした色白の男の子。いつも眼鏡をかけていて、おとなしい子だったような気がする。勉強がよく出来たとか、スポーツが得意だとか、そういう印象はまるでない。ただ地味で、いつもにこにこと笑っていたような、そんなことくらいしか覚えていない。
トモちゃんにそういうと、そうね、と笑いながら続けた。
「A君ね、とってもいい子だったのよ」
私にはトモちゃんとA君が仲が良かったといいう記憶がないので、少し驚いた。トモちゃんは同級生の中でもどちらかといえば男子にも女子にも人気があって、パッと目立つタイプだった。A君は地味な子の中でもさらに目立たない、まるで逆のタイプ。接点が見当たらない。
「あれ、トモちゃんてA君と仲良かったっけ?」
トモちゃんは柔らかい栗色の髪を揺らして、ふるふると首を振る。
「ううん、仲がいいっていうんじゃないのよ。ただA君はとってもいい子だったの」