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「ふたつの祖国」
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前編-22

「元公安ですか……」

 話を聞き終えた佐野は、まだ納得いかない。

「ああ。だが、きっぱりと断られた」
「確かに、元公安なら事案の情報を掴む事など容易いでしょうが……」
「何故、情報をくれたのか。だな?」
「ええ。探偵なら尚更です」
「それは、何れ解るだろう。今の我々には、情報の解明の方が先決だ」

 そう言葉を閉めたが、島崎自身、釈然としない気持ちであった。


 島崎と佐野が、謎の電話に悩んでいた頃、鶴岡と岡田は、老人の浮浪者が塒にする、橋へと河川沿いの道を急いでいた。

「昨日と同時刻ですから、ちょうど起きた頃でしょうよ!」

 後部座席の下には、刺身と弁当の入ったレジ袋。老人との約束の品だった。

 橋の傍。すれ違い可能な位置に車を停めて、護岸から橋の下へと降りて行った。

「こんばんはァ!爺さんッ、約束の物を持って来たぜ」

 塒の中に向かって叫んだが、何の反応もない。

「おかしいな。缶潰しにでも行ってんのかな……」

 鶴岡が周りを窺うと、老人愛用の自転車が、置いたままになっていた。

「どうします?」
「中に入ってみましょうか」

 岡田はそう言うと、端材で出来た扉をそっと開けた。

「こんば……!」
「うぐッ!」

 目の当たりにした光景に、岡田は絶句し、鶴岡は吐き気を催した。
 老人が目を剥き出し、舌をダラリと出した状態で、首を吊って死んでいたのだ。



 「ふたつの祖国」前編完


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