前編-15
坂上を自宅へと送り届けた帰りの路で、鶴岡がぽつりと口にした。
「こんな聞き込み、初めてですよ……」
最初の、生意気な女だという岡田への思いは既に無く、今はその力量に、心から感心していた。
強行犯係では、聞き込みは一般市民が殆どである。そこから、事件との関わりが有るとみた途端、任意同行という名目で警察署へ引っ張り、取り調べ紛いの尋問を繰り返す。
対して岡田達、組織犯罪係は、自分達から見れば、異質とも思える角度からアプローチしていった。
しかも、相手の頑に閉じた心を解きほぐし、情報を掴む為の手段に長けている。
どちらが、より真実に近付くかは明白だった。
「あの人達……」
岡田も口を開いた。視線は車窓の外を向いたままだ。
「……最初から、ああなったんじゃくて、昔は普通に生活してたし、社会的な地位もあったのよ。
それが、何処かで歯車が狂ってああなってしまっただけ。自分達だって同じ。何時、ああなってもおかしくないわ」
「そうですね……」
空が群青に染まる中、車は警察署へと戻って行った。
夜を迎えた本部で、捜査員達は一同に会した。
本日の捜査は終わりだが、仕事はまだ終ってはくれない。
明日、朝の定例報告会用の資料を作る必要があるのだ。
捜査員だけなら、互いの口頭による情報交換だけで済むのだが、上司である加藤や高橋には、そういう訳にはいかない。資料による報告を行う必要があった。
全ての情報を収集、分析し、報告の、必要性の有無を振り分けてから報告書を作成するのは、班長である島崎の役目だ。
「──これ、科捜研から送ってきた報告書です」
それは、島崎が依頼した案件だった。
死体頭部の潰し方は勿論、鑑識や解剖所見を含めた一般分析では知り得ない特徴を、探し出すよう頼んでいたのだ。
「読んでくれ」
鶴岡は、手にした報告書に目を通した。
「え……と。死体の頭部及び頸部圧迫は、瞬間的に強い力が均一に掛かったと考察される。って、これ、豚の頭で実験したのかよ!」
「お前の私語は要らんぞ。他には?」
「す、すいません……」
鶴岡は先を読んだ。
「……正位側の、わずかに残る真皮細胞から微量の酸化鉄が検出された」
「酸化鉄……?」
島崎以下、全員の目が鶴岡に注がれた。
「ち、ちょっと見せて!」
報告書には、検出した酸化鉄の種類である酸化第二鉄、四酸化三鉄の分量が記載されていた。
「この酸化鉄って物は、何なんだ?」
「ちょっと待って下さい!」
中島がパソコンから検索する。