時の邂逅 〜追記〜-6
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『……つうわけだ』
そこからアースとして産まれるまで記憶はないし、産まれてからも自分の事は何も覚えてなかった。
ふとグロウがアースを見ると、アースは微妙に顔を赤くしている。
『何故、照れる?』
「え?あ……いや……ちょっと嬉しくて……」
自分が産まれる前から命を賭けて守ってくれていた……もっと自分を大事にしないといけないな、とアースは無くした右目を擦った。
『……ちゃんと記憶がありゃ、アキの事も守れたかもな……』
野盗に襲われて死んでしまったアキ……アースとグロウの脳裏には、鮮明な映像としてその記憶がこびりついている。
「仕方ねぇだろ……」
記憶があったとしても何も変わらなかったかもしれない……過ぎた事を悔やんでもアキは喜ばない。
『なぁ、お前さ……自分の名前の意味知ってるか?』
「いや……知らん」
いきなり何だ、とアースはグロウを見た。
『光』
「光?」
『正確には「希望の光」……スタン一押しの名前だ』
馬車の中で名前の候補をいくつか挙げていた……その中のひとつだ。
「そっか……」
産まれる前に死んだ父親にも確実に愛されていたと分かり、アースは薄く微笑む。
「そういや、リンには話したのか?」
もう1人の母の反応はどうだったのか、とアースは聞いた。
『はは、年上と付き合うのは初めてだって喜んでた』
3日前に急に眠気が襲い、丸1日寝こけて夢として記憶をたどった。
目覚めて直ぐに気持ちの整理をしながらリンに話すと、彼女は「真っ先に話してくれてありがとう」と微笑んで言った。
『も〜…可愛いよなぁ〜』
グロウは柵に突っ伏して悶える。
グロウにとってリンは相当可愛いらしく、尻尾が嬉しそうにうねうね動いた。
あの女のどこがそんなに可愛いのかアースには理解出来ない……まあ、理解したいとも思わないのだが。
何となく物思いに耽っていると、2人に気づいたキャラが下から手を振ってきた。
アースはそれに手を振り返し、ポツリと言う。
「キアルリアのが可愛いだろ……」
『お前にゃリンの可愛さは分かんねぇよ』
2人はお互いにノロケながら、同じ事を考えていた。
次の休みに4人で墓参りに行こう……愛する人を母と父に逢わせる為に……。
ー時の邂逅〜追記〜・完ー