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「カオル」
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last-14

「このクレンジングを使って」

 窓から見える景色に影が差してきて、元に戻る時間となった。
 薫は再び洗面所へと着替えに行った。部屋には、真由美とひとみが残された。

「真由美のおかげで願いが叶ったわ」
「わたしの方こそ、貴女に教えられたわ」

 真由美が、ひとみに頭を下げる。

「あの日。貴女に薫の事を忠告されて、わたしは自分の愚かさを教えられた。本当にありがとう」
「大事にしてやってね。貴女以外に味方は居ないんだから」
「分かったわ」

 しばしの沈黙。余韻に浸っている真由美に、再びひとみが声を掛けた。

「真由美……」
「なあに?」
「わたしの……もうひとつの願い……知ってる?」

 ひとみの眼差しが、何を意味するのか真由美には解った。
 拒否する気持ちはなかった。
 本当の彼女を知り、今までにない人間味を感じた時、より深く知りたい想いが涌いていた。

 真由美は、真っ直ぐにひとみを見返す。

「……知ってるわよ」
「叶えてくれる?」
「もちろん」

 どちらからとも無く、引き寄せられて抱擁を重ねた。

「真由美……」
「うん……んッ…」

 二人は愛しさを確め合うように、互いの唇を求めていた。





 2009

 誰も居なくなった店内で、薫と真由美は、カウンターを挟んで見つめ合っていた。

「お父さん、お母さんは元気にしてる?」

 薫は、ウイスキーグラスを差し出す。

「お父さんは先日会ったけど、元気そうにしてたわ。
 お母さんは……何時もと変わらずまあまあってところね」

 先ほどまでの和やかさはない。答える真由美の眼は、少し虚ろだ。

「あんたは?あの日から……」
「わたしの話はいいわ」

 薫は、自分の話をするのは苦手としている──特に昔話は。
 真由美は、仕方なく話題を変えた。

「……来月には、カルフォルニアへ渡る予定なの」
「お仕事で?」
「それもひとつだけど、向こうで暮らす為の準備にね」
「そう……」

 姉の話を聞いて、薫は自分のウイスキーグラスを一気に喉の奥へと流し込んだ。


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