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幕末余談・祇園の一夜
【歴史 その他小説】

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幕末余談・祇園の一夜-1

 時は慶応二年〔1866年〕…京都、祇園の料亭で、三味線の音色と芸者たちの笑い声が、響き渡っていた。

「なにやら、離れの部屋がにぎやかじゃのぅ…」
 芸者のヒザ枕でまどろんでいた土佐の脱藩藩士【才谷 梅太郎】は、ゆっくりと目を開けた。
「なにか、面白いことでもあるのかぜよ」
「なにやら…まっこと色男のお客さんが、遊びに来ているそうで…若い芸者衆が騒いでいるみたいで」
「そうか……どれっ」
 梅太郎は、懐〔ふところ〕に手を入れると、アクビをしながら立ち上がった。
「ちょっくら、見てくるぜよ…どんな、色男に芸者衆が騒いでおるのか」
「物好きな御仁やわ…」
 芸者の言葉に、才谷 梅太郎は、頭を掻きながら。
 部屋を出て三味線の音色が聞こえてくる、離れへと向かった。
 障子の奥から、楽しそうな笑い声の聞こえてくる部屋の障子を、梅太郎は開けて顔を覗かせた。
「ちょっくら、お邪魔するぜよ…」
 部屋の中には、数人の芸者に囲まれて、酒を飲む武士の姿があった。
「なるほど…確かに色男ぜよ。オナゴ衆が騒ぐのも無理はないぜよ」
 梅太郎と年齢は同じくらいだろうか…突然、現れた。梅太郎にも色白の美男子は別段、驚く様子もなく静かに芸者から勺をされた酒を、味わっていた。

「なにか?ご用ですか」
「いやぁ…向こうの部屋で芸者と二人で、飲んどったんじゃが。にぎやかなので、どんな客が来ているのかと、覗いてみた…同席してもいいかぜよ」

 梅太郎の言葉に、武士はにっこりと微笑む。
「いいですよ…酒は大勢で飲んだ方が楽しいですから」
 梅太郎と色男の武士…俳号で〔俳句を作るときの名前〕【豊玉】と名乗った男は互いに酒を酌みかわした。
「あっ!それっ!ええじゃないか!ええじゃないか!くさいものには紙をはれ、やぶれたらまた紙をはれ!えぇじゃないか!」
 梅太郎が、世間で流行し始めていた伊勢参りの【ええじゃないか】の節で酒の席を盛り上げ。
 豊玉は、それを静かに眺めながら酒を飲んだ。
 偶然に出会った、男二人と芸者たちの酒宴は、深夜まで続けられた。


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