恋敵は"ちぃちゃん"-2
私が困っていると雅樹はいつも助けてくれた。
六年生の時公園を歩いていると前から子猫が走って来た。私がその子猫を抱き上げると
「その子猫は俺達と遊んでいるんだ!返せよ!」
子猫を追いかけて来た三人の中学生が叫んだ。子猫は私の腕の中で怯えたようにふるえていたので
「ダメ....」
私は思わずそう言ってしまった。
「代わりにお前が俺達と遊んでくれてもいいんだぞ」
私は怖くて後退って
「イヤ........イヤ......」小声でそう呟くだけで、そのまま動けなくなった....
「ちぃちゃんをいじめるな!」
雅樹が走って来て私の前に立ちはだかった。
「可愛いヒーローの登場か?」
中学生が雅樹に殴りかかった。中学生の拳が雅樹に届く前に雅樹の回し蹴りが中学生の顔面を捉えていた。
「まぁちゃん?」
「大丈夫だよ!手加減しているから!」
雅樹の父親は空手の道場を開いている。小さい頃から空手を教えられていた雅樹は、生まれつきの運動神経の良さも手伝って、道場では高校生とも互角以上に渡り合っている。普通の中学生では雅樹の相手にならなかった。雅樹はあっという間に三人を叩きのめしていた。
「大丈夫?ちぃちゃん?」
笑顔で話しかけてくれる雅樹に
「ありがとう!まぁちゃん!」
私も笑顔で返した。
雅樹は優しすぎた。相手が年上だと遠慮せずに戦えたが、同年代だと防具の上からでも殴れなかった。試合に出ても防戦一方で初戦敗退だった。自分に何かされたとしても決して手を出さなかった。雅樹が手を出すのは私に何かあった時だけ....雅樹は私のヒーロー....私だけの騎士だった....
「まぁちゃん!本当にありがとう!」
私の手を引いてくれている雅樹に言うと
「いいよ別に....」
雅樹は照れたように答えた。
「私はいつも助けられてばかりだね!」
「気にしなくてもいいよ!いつも父さんに言われているんだ!自分のために空手を使うな!使っていいのは好きな人を守る時だけだって!」
私は雅樹の「好きな人」と言う言葉を聞いて嬉しくなった。雅樹に「好きだ」と言われたみたいで....その時から私は雅樹のお嫁さんになる事を夢見てきた....
「あの時私を好きだって言ってくれたくせに....雅樹のバカ!!」
私は膝を抱えてブツブツ呟いていた。あの時の雅樹の好きだと言う言葉は恋愛感情の好きかどうかわからないのに....単なる私の勘違いかもしれないのに....私は独りで浮かれていた....猫が私の足にすり寄って来た。あの時助けた子猫はそのままウチのペットになった。
「お前も聞いていたよね!確かに好きだと言ってくれたよね!」
私は猫に話しかけていた。窓から雅樹の部屋を見ると雅樹はまだパソコンを見つめていた。
「教えるんじゃなかったなぁ.....」
その時は....雅樹が"ちぃちゃん"にあんなに夢中になるなんて思ってもいなかった。
「中田さん授業中ですよ!」
昔の事を思い出していた私は、先生がすぐ横に立っているのにも気づかなかった。
「中田さん!宮城君がいなくて淋しいのはわかるけど、もう少ししたら、また一緒の教室で勉強出来るんだから、今はこの授業に集中しなさい!」
今の時間は選択授業で雅樹とは別の授業を受けていた。グループ発表の準備をしている時間に考え事をしていたので注意されたのだった。
「すみません....」
私が素直に謝ると
「あら....図星だったの?冗談で言ったのに....」
先生が呟いた言葉にグループの友達は吹き出してしまった。友達の笑い声で注目された私は真っ赤になっていた。