Jungle Jungle Moon-2
「す…すげ…」
僕はあんぐりと口を開いたまま、満月を見上げてた。
「でしょ?でしょ?」
嬉しそうに笑うシトラス。
「こうやって…ほら、キョウちゃんも!」
シトラスはパームツリーの真下にゴロリと寝ころぶと、僕の肘をつついて僕にも同じように寝ころぶように促した。
「ジャングルゥ〜」
足をパタパタ動かしながら嬉しそうにそう言うシトラスを、僕は少し見下ろして、それからシトラスの横に同じように寝ころんだ。
真下から見上げるパームツリーは、繁繁と葉をたたえた枝を窓に向かってグイと延ばし、明るい月の光を少しだけ遮りながら緩く吹きすぎる夜の風に揺れていた。
「ねぇ、キョウちゃん…ジャングルで寝ころぶとこんな風にお月様見えるのかなぁ?」
…わかんねぇよ…ジャングルで寝ころんだコトねーし…
だけど、パームツリーを透かして見る満月は、いつも見てる東京の月とは全然違って見えるよな。
「…さっきお店の前通った時にね、お月様がこんな大きいのに気がついたんだ」
「そしたら、目の前に椰子の木があるじゃない?椰子の木の下からお月様見上げたら…どんな感じに見えるのかなぁ?って思っちゃった」
シトラス…自由に生きてる女の子。
こうしたいって思ったら、そうしなきゃいられない。
周りがどう思うとか、他人にどう見られるとか…そんなコトは君の価値観の中にはこれっぽっちもありゃしない。
月の光に照らし出されて、シトラスの横顔が深い陰影を浮かべる。
はぁ…悔しいけど、凄くキレイだ。
僕の視線に気付いたのか、シトラスがゆっくりこっちを向く。
腰まで届きそうな長い髪がサラリと流れて、涼しげな目元が僕の目と合う。
“ドキン”
僕の心臓が早鐘を打つ。
「キョウちゃん…シテいいよ」
ドクンドクンドクン
僕の鼓動が部屋中に響いてる。
『シトラスを抱ける男はチョーラッキー』
皆が口々にそう言うだろう。
シトラスがシタいと思った時だけ、シトラスは男に抱かれる。
前に聞いた噂じゃ、一週間一緒に過ごした男も、シトラスを抱けなかったって。
ホントかょっ?!
この女の子と一週間も一緒に居て、これっぽっちも触れられなかったら…大抵の男は気がどうかしちまうぜ!
シトラスのほっそりと長く伸びた指が、僕の頬を撫でた。
「アオカンっぽいね」
クスッと小さく口元を弛めてシトラスはそう言った。
“プツッ”
僕の頭の中で何かがちぎれた音がして、僕はシトラスを抱きしめる。
切れ長の大きな瞳が僕の下から見上げてて、
ああ…シトラス…君がいけないんだ…
僕の唇で彼女の唇を塞ぐ。
お願いだシトラス、キスしている時は目を閉じてくれよ。真っ直ぐに見つめる瞳が僕のすぐ目の前。
こうゆう時に照れるのは、普通女の子の方じゃナイの?
僕がシトラスを抱くのは二度目のコトだけど、そういや前の時も君は目を閉じちゃいなかったっけ?
君の首筋から発ち昇るジャン・デュック・アムール。
ああ…君の香りだ。
僕は深く息を吸い込む。君もろともに…僕の中に…深く深く。
シトラスどこを見てる?
君を見つめる僕を通り越して、君の瞳は何を見てる?
どんなに僕が愛を込めて君の体を愛しても、君の唇からは時折深く浅く溜め息が漏れるだけで。
君の唇から歓喜の声を引き出すコトが出来た男は居るのかい?もし、居たとしたら……
僕は嫉妬に狂い、そして涙するだろう。
「ねぇ…ライオンやゾウやキリンも、こんな満月を見ながら抱き合っているのかしら?」
ああ…シトラス、シトラス、僕の力の限りの愛を受け止めながら、そんなコトを言うのはやめてくれ。
君の体の奥深く、僕のモノが音を起てている。
君の熱く潤んだその場所は、チュプチュプと僕を受け入れてくれているのに。
頼むから…もっと熱い吐息を僕に聴かせておくれよ。
「キリンは椰子の木越しに月を見上げながらセックス出来ないよね?椰子の木から首がはみ出しちゃう…フフフ」
プリーーーーーズ!!
頼む!喋るなっ!僕のコトを、僕のコトだけを考えてて!
…っぅか……
ライオンやキリンが住んでるジャングルには、椰子の木なんか生えちゃいないだろ?
奴らが住んでるのはサバンナだ…。
もっと背の低いブッシュに身を潜めながら愛し合ってる。
ジャングルで愛し合ってるなら…それはアフリカじゃ無くてむしろアマゾンだろ。
もっとジメジメしてて、蒸し暑くて陰気なジャングルで愛し合ってるのは…そうだ、蛇だね!
蛇のセックスはどんなだか知ってる?
一度愛し合ったら、24時間だって離れない…らしいよ?
見たコト無いから本当か嘘かわかんないけど。