おにいちゃんの悪戯-4
俺は別にモテモテじゃないよ、とまたおにいちゃんが笑う。大きな手がぽんぽんと頭を撫でてくれる。
「親父たちは何か勘違いしてるみたいだけど、俺もいずみと同じで一度も彼女なんかできたことないよ。高校の時は部活と勉強の両立で忙しかったし、今だってバイトと学校とサークルでそんなヒマないし、それに・・・」
「それに?」
「こんなに可愛い妹がいるから、ほかの女なんて目に入らないんだよ。だから、そんなくだらないことで泣いたりするな。俺まで悲しくなるだろ」
おにいちゃんはときどきこんなふうに言って、わたしを慰めてくれる。美しき兄妹愛?でも今日はそんな見え見えの嘘でごまかされるような気分じゃない。
「嘘ばっかり。可愛いなんて思ってないくせに!おにいちゃんの嘘つき!」
「いずみ・・・」
「そうやって慰めてくれるのはうれしいけど、思っても無いこと言われても悲しくなるだけだもん。わたし、全然可愛くなんかないんだから!」
またぼろぼろと泣けてきた。うっとおしいわたし。嫌なわたし。もう本当に放っておいてほしい。
ふいに、おにいちゃんの顔がわたしの泣き顔を覗き込んできた。思いがけない真剣な表情に、ちょっとびっくりして心臓が止まりそうになる。
「な、なによ・・・」
「いずみ、俺、ほんとにおまえのこと可愛いって思ってる。嘘じゃない」
おにいちゃんの手がわたしの頬を撫でる。まるで壊れやすいガラスの置物にでも触れるみたいに、指先がそっと肌の上を流れていく。耳元で低い声が響いた。
「おまえがどれだけ可愛いか、教えてやるよ」