時の邂逅-27
「なあ、グロウ……私の心は何処に行けばいいのかな?」
愛する女性は幸せに人生を全うした。
それはとても喜ばしい事なのだが、傍に居たのが自分ではなく他の男だというのが残念でならない。
『ウィルはお前だけを愛してた。サガンはそれを承知でウィルを妻にした』
「なんだそれ?」
デレクシスは視線をグロウに向ける。
『ウィルが妊娠してると分かった時、周りの奴らは誰かと結婚した方がいいって言ったんだよ。だが、あいつは他の男と結婚するつもりは無い、子供は自分1人で育てるって聞かなくてな……だったら俺と結婚しろってサガンが言い出した。年が離れ過ぎてて恋愛対象にはならないが、1人よりも良いハズだってな』
「サガンとの子供も出来たんだろ?」
『お前の息子が弟や妹が欲しいって駄々こねたんだよ』
で、望みを叶える為にウィルはサガンとの子供を望んだ。
そうか、息子だったのか……とデレクシスは会えなかった息子に思いを馳せる。
そして、デレクシスはフィシュラに渡された手紙を開いて読み始めた。
ーーーーーーーー
親愛なるデレクへ
貴方がこれを読む頃にはアタシは死んじゃってるのかな?
貴方と人生を共に出来なかったのはとても悲しい事だけど……貴方が居た……貴方の愛の証がアタシを幸せにしてくれた。
サガン様もアタシを大切にしてくれたから……とても幸せ。
だから貴方にも幸せになって欲しいの。
アタシの事は時々思い出すだけでいいから……アタシもそうしてるから……忘れないでいてね。
巡り巡って、時のどこかでまた…貴方に逢えますように……。
愛してる……アタシの王子様。
ーーーーーーーー
短い手紙を読んだデレクシスは、一度目を閉じてからよいしょっと体を起こした。
テラスの端まで来ると、その手紙をビリビリっと破く。
『おい?!』
驚くグロウをよそに、手紙を細かく細かく破きバアッと空に投げた。
「風!来!」
呪文を唱えて風を操ると紙くずを海の方へと飛ばす。
それを見送りながらネックレスを自分の首にかけたデレクシスは、グロウに振り向いて笑った。
「まあ、いいか。ウィルもサガンも幸せだったんなら私も負けていられないな」
『そういうこった……お、バリー達が帰ってきたぞ』
騎士団と一緒にデレクシスを捜索していたバリーが、テラスに居るデレクシスに気づいて手を振る。
「デレク!心配させやがって!この馬鹿王子が!」
「すまなかった、バリー!聞いて欲しい事が山程あるんだ」
デレクシスはザックと完全共有してバリーの元に飛ぶ。
驚くバリーや騎士団達の表情を見て満足すると、遠くにある海に視線を移した。
《……デレク……》
耳に響くウィルの声。
(……さよなら……ウィル……)
ー時の邂逅・完ー