時の邂逅-26
『産まれたお前の子供は責任持って俺らが育て……』
「待てい!!」
デレクシスは両手を突き出してグロウを黙らせる。
「……え?子供?」
デレクシスの様子にグロウは呆れて答えた。
『なんだ、聞いて無かったのか。ウィルはお前の子供を宿してたぞ?』
知ってるかと思ってた、とグロウは言う。
「し、知らない!大体、1ヶ月半で妊娠が分かるハズないじゃないか!」
グロウはそれもそうか、と納得した。
『ま、とにかくだ。ウィルはお前の子供を産んで、サガンと結婚。その後、サガンとの子供が2人出来たが全員幸せな一生を送った』
衝撃の事実にデレクシスは頭を抱えてしまった。
「何これ……?自分の子供や孫?が既に一生を終えてるって意味わからない……」
デレクシスの言葉に全員がうっすら苦笑いする……もし、これが自分だったら彼と同じ反応をしただろう。
「まだ、一生を終えてない子孫も居りましてよ?」
突然、フィシュラが話に割り込んでデレクシスの前に来るとそこに膝まづいた。
「祖先から預かっていた品です。お返しします」
渡されたのは一冊の手書きの本に一枚の手紙と、小さい箱。
デレクシスは箱の蓋を開けて目を見開いた。
「これ……」
そこに入っていたのはかなり古くなっていたが、以前デレクシスが身につけていたネックレス……ウィルにあげたものだった。
「いつか、デレクシスという名前の王子が現れるだろうから渡してくれと……ずっと伝えられ、受け継がれてきました。今日……謎が解けましたわ」
フィシュラはにっこりと微笑み、その笑顔がウィルと重なる。
「……貴女は……」
「わたくしが水系の魔法が得意な理由も分かりました……水の精霊人、ウィルの血を受け継いでいるからですね」
デレクシスの頬を涙が伝う……悲しいワケじゃない……嬉しいワケでもない……なのに涙が止まらない。
フィシュラはそんなデレクシスの横に座り、その頭を抱いた。
ウィルと同じ、濃い水の匂いがデレクシスを包む。
(……ウィル……)
始まったばかりのデレクシスの恋は唐突に終わりを告げた。
「やりきれないなあ……」
ひとしきり泣いてすっきりしたデレクシスは、テラスの長椅子に仰向けに寝転んだ。
グロウ以外は気をきかせて部屋から出て行っている。