やっぱすっきゃねん!VS-1
「何で、こんな事になるんですか……」
葛城は泣きながら言った──虚しさが込み上げる。
決勝戦前夜。藤野一哉は永井のやり方に不信感を持ち、野球部を去る事を決意した。
突然の事に、驚きで声も出ない。そして次の瞬間、何としても止めねばと思った。
だが、二人の意見は次第に感情を伴い、引き返せる分岐点を既に越えてしまっていた。
一哉が去った職員室に、二人はとり残された。
(素晴らしい関係だと思ってきたのに……)
呆気ない幕切れ。葛城は茫然自失の心境の中、何もやる気になれない。
永井は一哉を見送った姿勢のまま、ソファーに腰掛ける葛城に言葉を投げた。
「この一件、わたしが発表するまで一切触れないで下さい」
──自分が原因を作っておいて、なんて身勝手な!
葛城は強い憤りを感じた。
しかし、選手逹への影響を考えると、従うしかなかった。
それに、このまま一哉の辞意を受け入れるつもりも無い──慰留すると心に決めていた。
「わかりました。でも、いずれは知らせませんと……」
「葛城さん」
改まった口調の声が掛かる。
「今回ばかりは、わたしは自分の意見に自信を持っています。勿論、藤野さんも解ってらっしゃるはずです」
「しかし、あの剣幕では……」
「大丈夫。わたしに考えがあります」
永井は葛城の方に歩み寄り、再びソファーに腰掛けた。
「この話はここまでとしましょう。それより、明日の試合にむけた対策です」
「はい……」
葛城は、この件を胸に仕舞い込み、決勝戦での戦略を永井と確認しだした。
ミーティングの最中にも胸に去来する。永井の考えとは何なのか、と。
先程の口ぶりからすると慰留のはずだが、考え方が平行線のままでは無理だ。
かといって、永井が妥協するとは到底思えない。
それに、自分にもひとつの秘策がある。
恐らく、この方法なら一哉も辞意を考え直してくれるかも知れない。
(上手くいくかは分からないけど、やるしかないわ……)
葛城は、強い決意を胸に秘めて臨むつもりであった。