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やっぱすっきゃねん!
【スポーツ その他小説】

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やっぱすっきゃねん!VS-8

 永井が榊と焼き鳥で会っている頃、稲森省吾は自室でアイシングの最中だった。

「痛ッ……」

 保冷剤を巻いた左の肩と肘に、疼くような痛みが疾る。地区予選からの疲労が蓄積していた。

(今日は早々に準備させられたから、きっちりしとかないと)

 直也が踏ん張ったおかげで身体は休められたが、ブルペンでかなりの球数を放らされた。
 だから、少しでも良い状態で明日を迎える為に、アイシングの最中だった。

 明日は先発としてマウンドに立つ。そう思うと感慨無量な気持ちになった。
 省吾の胸に、あの日の出来事が甦る──昨年の全国大会。
 千葉県の強豪、明林中野球部に在籍していた省吾。だが、出番が無いどころかベンチにも入れてもらえなかった。
 百名を超える部員。その中で二年生ながら、左ピッチャーとして大会メンバーに選ばれると思っていた。
 しかし、監督が選んだのは他の二年生ピッチャーだった。
 大会中。同級生が投げる姿をスタンドから観ていた時の屈辱的光景は、今も脳裡に焼き付いて離れない。

(あの監督に、選択が誤りだったと認めさせてやる……)

 明林中が今年の千葉県大会を制した事。昨年、選ばれた同級生ピッチャーが、今年はエースである事を省吾は知っている。
 明林中へのリベンジには、全国大会で対戦するしかない。

 ──必ず勝ってやる!

 稲森省吾は、胸の中に強い意志を秘めて明日に臨もうとしていた。





 省吾がアイシングをしている頃、橋本淳は自宅でシャドウピッチングを繰り返していた。
 廊下の突き当たりに貼られた姿見に自らを映し、フォームのチェックに余念がない。
 手にタオルを持ち、腕を振り抜いた時にタオルがきちんと縦に振れているかを何度も確める。

(まずまずだな……)

 ピッチングは既に四十回を超えていた。しかし、淳の不満はまだ消えていない。
 最後に投げたのは一昨日の準々決勝。投球数は練習も含めてわずかニ十球余り。
 昨日は雨、今日は直也の完投とはいえ、二日の登板間隔は淳の不安を煽っていた。

 ピッチャーになって一年足らず。小学生時代にも投げた経験はない。しかも、任されているのは抑えという切り札的存在。
 直也や省吾の様に、長年先発投手を担ってきた者はフォームも固まっているので、二日の間隔も大した影響ではない。
 しかし、自分は毎試合最終回だけの登板機会。間隔が空き過ぎると、フォームも崩れがちになる。

 淳は、間隔が空いた場合に崩れそうになる投球フォームを補う為、シャドウピッチングを行っていたのだ。

「ハァ、ハァ、ハァ……」

 額から玉のような汗が吹き出す。淳はシャツの袖で額の辺りを拭った。
 その時、姿見に何かが映った。後ろを振り返ると、父親が立っていた。


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