やっぱすっきゃねん!VS-4
直也が、兄の信也からエールを受けていた頃、山下達也は夕食の最中だった。
「達也!何時も言ってるでしょッ、食事中は本を置きなさいって」
母親と年の離れた妹との夕食。父親は、まだ帰宅していない。
「おにいちゃん、やめさない」
今年から小学生になった妹は、益々、憎まれ口を利くようになってきた。が、達也は気にした様子もない。
「藍子。お兄ちゃんもそう思うがな、仕方ないんだ」
「何が仕方ないのよ。最近、ずっとでしょッ」
妹との会話に、母親の厳しい言葉が割って入った。
「これを明日までに、頭に入れる必要が有るんだよ」
達也は、本と言われた物を母親の前に突き出した。
「何よ、これ?」
「明日の対戦相手のデータだよ」
そこには、永井や一哉が集めてくれた打者別の得意、不得意なコース、カウントや走者の有無によってのバッティング等が、事細かく書かれていた。
「俺はキャッチャーだから、これを頭に入れとかないと困るんだよ」
「へぇー」
母親が、広げたページをまじまじと見つめて言った。
「勉強もこれ位やってくれれば、もうちょっとマシな成績だろうに」
「ちゃんとやってるから、赤点で先生に呼ばれた事もないんだろ」
「本当かしら」
「ホントかしら」
母親の隣に座る小さな妹が茶々を入れてきた。達也は思わず、苦笑いになる。
「母ちゃんもいい加減にしないと、藍子が喋り方を真似てるぞ」
「当たり前じゃない。親子だもん」
「まったく……」
処置なしだ──達也はそう思いながら、この時間を無くては生らない物だと感じていた。
練習後、秋川は加賀を誘って両親が営む洋食店に居た。
秋川は部活後、此処で夕食を摂って帰宅するのを常としている。
一人の食事は可哀想だという思いと、少しでも家族が顔を合わせる時間を作りたいという、母親の考えからだった。
「たくさん食べてね」
休憩室に待つ秋川と加賀の前に、ハンバーグステーキにライス、サラダ、スープが運ばれてきた。
「ありがとう。後はやっとくから」
秋川と加賀は、料理を飯台に並べている。母親は感慨深げな表情でそれを見つめていた。
「いよいよ、明日は決勝だね。わたし逹は試合を観に行けないけど、頑張んなさいよ!」
励ましの言葉なのだが、秋川は別の意味に採った。