やっぱすっきゃねん!VS-10
「……ど、どうしたんです?急に」
「そりゃあ、あなたももう、いい歳でしょう。そろそろと思ったもんで」
──酔っ払いの戯言だ。上手くかわせば、いずれ寝てしまうだろう。
そう、一哉は思った。
「そのうち何とかしますよ」
しかし、思惑は外れてしまった。健司が「そんな気持ちじゃ駄目だよ!」と、絡んできたのだ。
「もっと、自分から積極的に行かないと!」
そう発破を掛けておいて、自分と加奈のエピソードを語り出す始末。
「……加奈は凄いテニスプレイヤーでね。大学でも有名だったんだッ」
かなりの声でなれそめを繰り出して悦に入っている。
一哉にすれば災難以外の何物でもない。楽しい雰囲気も何処かへ吹き飛んでしまった。
(いつから、こんなに酒が弱くなったんだ……?)
その時、騒ぎを聞き付けた佳代が客間に入ってきた。
「父さんッ!母さんが近所迷惑だから止めてって」
娘の厳しい叱責を受けながらも、健司の上機嫌ぶりは収まる気配がない。
「藤野さん」
「今度は何ですか?」
「佳代なんかどうです?」
今度は我慢出来なかった。
一哉は口に含んだ焼酎を、一滴残らず床に吹き出してしまった。
「何を言ってんですかッ」
一哉は、汚した床の始末をしながら健司を諌める。
途中から聞いてた佳代は、何を慌てているのかが解らない。
「わたしが何なの?」
「藤野さんのお嫁さん。どうだ?」
意味を知った佳代の顔が、みるみる赤くなる。
「父さん!いい加減にしないと母さん呼んで来るよッ」
恥ずかしさで居場所がない。思わず健司を強く叱りつけ、慌てて客間から逃げてしまった。
「おお、怖い々……段々、加奈に似てきたなあ」
「何で、あんな冗談を言ったんです?佳代が可哀想じゃないですか」
一哉も気分を害していた。
言っても良い事と悪い事がある。まして、佳代位の年頃の子に言って良い冗談ではない。
しかし、健司は急に真面目な顔で一哉を見据えた。
「冗談じゃないよ。僕は本気でそう思ってるんだ」
「だったら、尚更、始末に悪い。佳代はまだ中学生。わたしと十三も歳が離れてるんですよ」
「年の差なんて問題じゃない。肝心なのはお互いの心でしょう。あの子は、あなたの事が大好きなんです」
「バカバカしい……」
一哉は、言葉を吐き捨てる。
「盲目的にあなたを慕っている。だから、どんな練習でも、どんな辛い状況でも凌ぐ事が出来た。
僕や加奈は、何時も佳代の口からあなたの事を聞かされているんです」
「……」
「何年か先、あの子はきっとあなたの存在の大きさに気付くはずだ。その時、あなたがまだ独り身なら考えてやってくれませんか?」
健司は再び、一哉の目を真っ直ぐ見た。