宴のあとで-5
夏。田舎の父方の祖母の家に母親と共に数日間泊りに行った。祖母は何かの用事でその日だけは留守だった。暑くて寝苦しくて、夜中に目が覚めてしまった。
隣に母の姿が無いことに気がついた。真っ暗な中で外からは虫の声だけが大きく響く。こわい。ママ、どこ?どこに行ったの?田舎の家は広かった。夢中であちこちの部屋をのぞいてまわった。
いない、いない。泣きながら汗だくになりながら、幼いエリナは母を求めて家じゅうを探し回った。
母は、庭にいた。
一番大きな木の陰に。ひとりではなかった。見たことの無い男と一緒だった。母親は浴衣の胸をはだけ、そこに男は顔を埋めていた。大きな朝顔の柄。エリナとおそろいの浴衣。喘ぐ母親の顔はまるで別人のようで、エリナは声も出せずに立ちすくんでいた。
男が母の浴衣を捲りあげて腰を抱えあげる。露わになった尻を突き出す格好で母は木にしがみつき、男の腰の揺れに合わせて押し殺したよがり声をあげた。見てはいけないものだとわかっているのに、動けない。目をそらすことができない。母の呼吸はあまりに荒く、そのまま死んでしまうのではないかと怖くなった。ママ・・・
「ちょっと、何してるんだいっ!?」
暗闇を切り裂くような声が時間を止めた。祖母の声だった。男があわてて母から離れ、母ははだけた胸を隠した。
「お、おかあさん・・・どうしたの、今日は帰らないって・・・」
「予定より早く終わったから戻ってきたんだよ、それより、これはどういうことなんだい!?」
「こ、これは・・・その・・・」
「いまからすぐ、武彦に連絡するからね。だからわたしは反対だったんだよ、高卒の嫁なんてろくなもんじゃないって言ったんだ」
武彦というのは父の名前だった。母は怒り狂って祖母に掴みかかった。
「高卒だ何だっていつもいつもわたしのこと馬鹿にして!武彦さんに告げ口なんてさせない、絶対にさせない!」
「ふん、この家にまで男を引っ張り込んでおいてよくそんなことが言えるね。その男の連絡先教えな。家にも会社にも連絡してやる。大事な息子を裏切られたんだ、ふたりまとめて地獄に落としてやるからな!」
普段は優しい祖母の顔も鬼のようになっていた。怖くて怖くて、エリナはもう立っていることもできなかった。
なんの前ぶれもなく男が動いた。