加藤エリナという女-1
幼いころからエリナは我慢ということができなかった。
どうしても何かを手に入れたいと感じたときには、それが叶えられるまで頑として誰の言うこともきかなかった。小さな顔を真っ赤にし、全身を震わせながら、どんなにそれが欲しいのかを訴え続けた。遊ぶことも、食べることも、眠ることさえも拒否して欲しがり続けるエリナに対し、まわりの大人たちは根負けしてしまい、彼女の要求を叶えてやるのが常だった。
また、彼女が欲しがるものはしばしば両親を不思議がらせた。それは小さな駄菓子屋の陳列棚の端にあるほこりにまみれたビー玉であったり、商店街の豆腐屋さんに飾ってあった古い置物であったり、隣の家に暮らす老婦人が愛用しているハンカチであったりした。
「どうしてこんなものが欲しいの?」
そう大人たちにたずねられても、エリナにはうまく答えることができなかった。ただ欲しいと感じるだけなのだ。それらが自分の傍に無いことが、ひどく不当なことのように思えてしかたがないのだ。成長してからエリナは当時の自分の気持ちをそのように振り返る。けれども幼い彼女にそんなことが言えるわけも無く、手に入れることができた喜びをにっこりと幸せそうな笑顔で表すばかりだった。
ただ、そうして実際に手に入れてしまったものに対してはそれほど興味を持続させることができない。だから彼女の家の物置には、一瞬で飽きられてしまった哀れな残骸たちが積みあげられていた。