加藤エリナという女-7
彼女は素肌に直接パジャマをはおっただけの姿で、階下にある両親の寝室へと向かった。10月の初旬、深夜になるとやや肌寒さを感じる季節。ひんやりとした廊下を素足でぺたぺたと歩き、寝室のドアをノックした。
「パパ、入るわよ」
照明のスイッチが切られた暗い寝室の中心、そこに置かれた大きなベッドの上で父親はうろたえたように視線をさまよわせてから彼女を見た。
「エリナ・・・」
「パパ、わたしのこと見ていたのね」
「わ、悪かったよ、のぞいたりするつもりじゃなかったんだ・・・僕は・・・」
「いいの。パパは小さいときからわたしのことを誰よりも可愛がってくれたわ・・・大好きよ、パパ」
それは嘘ではなかった。いつでも彼女のわけのわからないわがままを怒りもせずに率先して叶えてくれたのは他ならぬこの父親だった。母親があきれるほどに、父親は常にエリナを溺愛していた。そしてエリナもまた父親が大好きだった。
言葉を失う父親の目の前で、彼女はするりとパジャマを脱ぎ捨て、その大きな体に抱きついた。がっしりとした筋肉質な肩、いつもエリナを守ってくれる力強い腕。ああ、これ以上欲しいものなんて世の中にあるのだろうか。胸の中に愛おしさが溢れだし、思わずエリナは父親の胸に頬ずりをした。
「ねえ、わたしのお願い聞いてくれる?」
「お、お願いって・・・?」
放心したような父親の耳元でエリナはそっと囁いた。
「わたし、パパのことが欲しいの」
「エリナ・・・それはどういう・・・」
父親が何かを言い終わるまえに、エリナはその口を自分の唇でふさいだ。舌を差し入れるとほんの少しお酒の香りが漂った。まだ飲んだことの無いその味さえも愛おしく感じられ、伸びかけた髭がちくちくと頬に当たるのも気にせずにエリナは気のすむまで父親の唇を貪った。