加藤エリナという女-3
ほかの女子生徒たちのように彼に群がってきゃあきゃあと騒ぐようなことはせず、ただ静かに彼にを見つめた。わずかに潤み、熱をともなった視線で。
蒸し暑く騒がしい更衣室でエリナは濡れて体に張り付く紺色の水着を脱ぎ、丁寧に髪を梳かしながらその男性教師のことだけを考え続けた。
「エリナちゃん、スタイルいいよね。うらやましい!」
「ねえ、おっぱいだってすごく大きいのにこんなに細くて、ずるいよー」
誉め言葉ともやっかみともつかない同級生たちの言葉を適当に受け流し、鏡に映る自身の姿を眺めた。貧相な体の同級生たちのなかにあって、彼女の体はすでに大人の女へと成熟しつつあった。どうすれば彼をわたしのモノにできるのだろう。わからない。
答えの出ない問題に苛立ちを隠しきれず、彼女はさっさと制服を身につけ、濡れた髪のままで更衣室を出て男性教師の元へと向かった。
彼は体育館にいた。閉め切られた窓、ムッとする空気。もうすぐ下校時刻ということもあり、そこには他に誰もいない。
「先生」
エリナが声をかけると男性教師は驚いたように振り向き、少し笑って見せた。
「なんだ、加藤じゃないか。こんなところでどうしたんだ?」
「わたし、先生のことが欲しいの」
エリナは教師に駆け寄り、その首に腕をまわし唇を重ねた。教師は何が起こったかわからないというふうに固まっていたが、やがてやんわりとエリナの腕を解き
「加藤、こういうことをしてはいけない」
と諭すように言った。エリナは怒りさえはらんだ燃えるような瞳で教師を見つめ、もう一度口づけながら囁いた。
「誰にも言わないわ。でもわたしの欲しいものをくれないなら、先生に犯されたってみんなの前で叫んでやるから」
「そんな・・・」
「お願い、先生。わたし、どうすればいいのかわからないの」
エリナの瞳から大粒の涙がこぼれ、頬をつたう。教師の戸惑いは手に取るようにわかったものの、体の奥から突き上げてくる『欲しい』と思う気持ちが抑えきれなかった。
結局この日、押し問答のようなやりとりを続けたあげく、エリナは教師のアパートまで一緒に帰り欲しかったものを手に入れることができた。