カノジョノキモチ-13
「もう! この変態! 普通に、出来ないの!?」
「ごめん、ついやりすぎちゃって……」
「……ほんと、信じられない!」
ミクは素に戻って、またジャージに着替えていた。
苦虫を噛み潰したような顔で、自分のお尻をさすっている。
ちょっと、強くやりすぎてしまっただろうか。
でも明らかに普通じゃないほうが、反応がいいんだよな。
そう考えた瞬間、ミクは眉間にシワを寄せて、僕をジロリと睨んだ。
「ああ、そうだ。カレー食べさせてくれるんだよね?」
「話題を逸らさないでよ、まったくスケベなんだから……」
彼女を無視して、カレーを温めてやる。
その間に、僕は簡単に野菜を刻んでサラダも作ってやった。
「あのさ……ここに残るって言ってたけど……」
「海外の学校なんて、無理だよ。外国語なんてしゃべれないしさ。ちょっと遠いけど、親戚に頼むとかしてみるよ。あ、それとも、同棲してくれる?」
「馬鹿!」
「あと、ミクさ、さっき僕に何かしたよね? あれって」
「あれは、いいの!」
「何をしたんだよ、気になるだろ?」
「うるさい! カレー、もう出来てるでしょ!」
彼女の作ったカレーは、うまかった。余程、いろいろ練習し研究したのだろう。
いかにも優等生の彼女が作りそうな、基本に忠実でスマートな味という気がした。
***
僕は結局、一人家に残ることになった。
進路を地元の大学にと定めたのだ。それならば、自宅に残るのが一番いい。
どの道いづれ一人暮らしをするのだと、両親も話し合いの末、承諾してくれた。
こうなると、大学へ是が非でも合格しなければならない。
彼女と同棲を、と少し考えてもみたが、それはさすがに許してはくれないだろう。
一応彼女にも聞いてみたが、スケベと同棲など論外だと一蹴された。
金色の瞳については、よく分からない。
分からないが、吸血鬼というのは、暗示をかける能力があるのだという。
特に異性に対しては、強力な魅了(チャーム)の魔眼を使うのだそうだ。
もしかすると、彼女は僕にその魔眼を使ったのだろうか。
それなら、彼女の能力が効くはずはない。
僕は初めに彼女に会った時から、既に魅了されていたのだから――――
「ねぇ、ここの問題、間違ってるわ。この時期にこんなイージーミスしてちゃ……」
これは全て僕の仮説で、いまだにミクの能力も正体もよく分からない。
僕の仮説が正しいとして、何故そんな能力を僕に使ったのか。
ミクの本心も、分からない。
分かっているのは、ミクの事が好きだという、自分の気持ちだけだ。
ミクの真剣な横顔を見ながら、僕はこのアパートに通い続けようと強く心に決めた。
いつか彼女の気持ちを確認できる、その日まで。
−完−