カノジョノキモチ-10
二人で、寝室のベッドに座っている。
本来意中の人物と、こうしている状況は喜ばしいはずだが、今日は気が重い。
ミクは、いつもと違う僕の様子を不安そうに横目で伺っていた。
僕は、そのまま横になって言った。
「ねぇ、そろそろ、やった方がいいんじゃないの?」
「やるとか、いやらしい風に言わないで」
「でも、必要なんでしょ? 急がないといけないんじゃないの?」
「……それより、今は大事な話というのを、聞きたいわ」
僕は、事の子細をミクに話した。
彼女は、僕が話をしてる間、石像になったかのように動かなかった。
無表情で、呼吸の音さえ聞こえない。話し終えると、長い沈黙が流れた。
僕は、沈黙に耐えかねて、ベッドに寝転がった。
「さ、話はこれまで。あとは君の用事を済まそう」
「ねぇ、わたしの事、やっぱり怖くなったんでしょう?」
「え? 突然何を言い出すんだよ?」
「だって、急に海外だなんて、そんなの……」
「僕だって急で驚いてるんだよ。どうしていいのか」
「……こうなるから、友達なんて、いらないって言ったのに!」
ミクは寝転がった僕の体の上に馬乗りになった。
最初の時と、同じだな。そう思った。彼女が、制服を着ているのも、同じだ。
あの時の表情は、人を傷つけてしまう事への苦しみの表情だったのだろうか。
今、僕を見つめる哀しそうな表情は、どういう意味の表情なのか。
「僕は、君にとって、何なのかな?」
「あなたこそ、わたしを脅して、勝手にごはん作りに来た挙句に急にいなくなるなんて一体何なのよ! わたしはあなたを――」
そう言うと、彼女の瞳が金色に光った。
こんな瞳は初めて見る。切れ長の瞳が爛々と輝いていた。これは、一体……。
人のものではない、何か強力な力がその瞳から僕に注がれている気がした。
気がした、というのは、実際何か特別な影響を受けた感じがしないからだ。
彼女の瞳から注がれた力は、僕の頭の中でどういう訳か、かき消えた。
彼女の能力について、考えたことはあまりなかった。
腕力は人並み以下だろう。運動が出来そうにも見えない。
超能力的な何かを見た記憶も無かった。
そういう能力があったとして、堅物な彼女が使いそうにも思えない。
それに、彼女は吸血鬼と呼ばれるのを、何より嫌っていた。
金色の瞳が、狼狽している。
僕に彼女の何らかの能力が通じなかった事に驚いているように見える。
そして、その表情のまま、いつもの瞳に戻った。