志津の受難-4
「玲様…お呼びでしょうか?」
「笠倉志津を見張りなさい。あの女の弱点を調べるのよ! 必要なら練習を休んでもかまわないわ。徹底的にチェックしなさい!」
「はい。玲様。仰せの通りにいたします」
「わかったら早く行きなさい」
八千代は一礼して出ていった。
突然の命令に驚きつつも、八千代は自分の胸が高鳴るのを抑えられなかった。
最近、練習中も志津の姿をつい目で追ってしまう自分に気がつき、内心後ろめたく思っていたからだ。
(これで正々堂々?と笠倉コーチを監視できる!)
八千代は学校を仮病で休んで数日間、志津の行動に密着した。それは八千代にとって夢のような時間だった。
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そして1週間後。
練習後、駐車場に停めてある軽自動車の鍵を開けようとした志津の前に八千代が現れた。
「笠倉コーチ…お話があります。お時間いただけないでしょうか?」
八千代の口調からただならぬ雰囲気を感じた志津は、
「ええ…いいわよ」
と答え、小さく頷いて助手席のドアを開けた。
15分後。
2人は海岸通りにある小さな喫茶店にいた。
「お話って…何かしら?」
まず志津から話を切り出した。
注文したアールグレイにミルクを注ぎながら、八千代の出方を待つ。
八千代は緊張した面持ちで、テーブルの上に封筒を差し出した。
「まず、これを見て下さい」
封筒を手に取って中を見ると、プリントアウトした写真が何枚も入っている。
どれも志津の写真ばかりだ。
1枚目は、志津が青木つかさと手をつないでホテルから出てきたところ。
2枚目は、2人が出てきたホテルの全景。
3枚目は、誰もいない部室で沖直見とキスしている志津。
4枚目は、直見と2人でマンションに入っていく様子。
5枚目は、公衆トイレの個室でスカートをたくし上げ、パンツを下している志津。
6枚目は、豊かなヒップの割れ目の奥から尿が凄い勢いでほとばしっているどアップ。
7枚目は、トイレの個室でそのままガニ股オナニーに興じる志津。
「真面目そうな顔をして淫乱なんですね! 女なら誰でもいいんですか?!」
八千代はきっとした表情で詰め寄った。
「ホテルについても調べました。女性同伴OKでレズビアンサイトでは有名なホテルですよね」
「ええ…その通りよ…」
「娘の同級生を弄び、クラブ顧問とただれた関係…。ずい分とご立派なコーチですこと!」
「青木さんの場合は仕方なかったのよ。ああでもしなければ、あの子自殺しかねない勢いだったし…」
「私…主将に命令されて、ずっとコーチのこと監視していたんです。これは報告しなければいけません」
それを聞いた志津はにっこりとほほ笑んだ。
「でも、あなたは報告する前に私に教えてくれた。…秘密にする条件は何?」
しばし沈黙の後、八千代は言った。
「…私を抱いて下さい」
言い終えた後、八千代は赤面してうつむき、じっと身を固くしていた…。
4.
志津の運転する車は八千代を乗せたままシティホテルへと入っていく。
先日つかさと一緒に入った伊勢佐木町の『イー・エックス』だ。
「はい…。ええ…。休憩でお願いします」
志津は3番の部屋を選んでフロントに告げる。
母娘のような2人。しかも片方は制服姿の学生。
明らかに条例違反の違法行為だが、フロントに座る初老の男性は黙って何も言わない。
あくまでも商売優先ということなのだろう。
そのかわり、好色そうな目つきで全身をじろじろと見つめられた。
手早くキーを受け取ると2人でエレベーターに乗った。
部屋に着くと志津は八千代の家に電話をかけ、まず自分の身分を名乗り『娘さんをお預かりします』と断りを入れた。
続けて自分の家にも連絡し、留守番電話に『大学時代の友人と偶然街で会ったので遅くなるから、夕食は冷凍庫のシチューを温めて食べなさい』と吹き込んだ。
一方、ベッドに腰かけたままの八千代は緊張でガチガチになっている。
(ああ…私、とうとう玲様を裏切ってしまった…!!)
いつもは活発で気が強い八千代だが、今頃になって自分の言い出したことの重大さに震えていた。
志津のただれた女性関係を知った時はショックだった。でも公衆トイレでオナニーする志津を見てしまった日から、もう八千代は自分で自分を抑えることが出来なくなってしまった。あの写真をズリネタにして何度も自慰に耽り、志津と結ばれる妄想に浸っていたのだった。
「あなた…。先にシャワーをお使いなさい」
志津が優しく声をかけると、八千代は首を振った。
「いいえ。コーチと一緒に入りたいんです」
「そう…。じゃあ、洗ってあげるわね」
そして2人でバスルームに入る。
「綺麗な髪をしているわね…。日頃からよくお手入れしているのね」
シャンプーを泡立てて、八千代の髪を洗ってやりながら志津は言った。
いつもは髪をアップにして後ろで縛り、額を全開にしている八千代だが、こうして長い髪を下ろすと歳相応に幼く見える。
「うちの娘なんか、私の真似をしてすぐ切っちゃうからつまらないのよ…」
ふふっ、と笑い、楽しげに愛花の話をする。
八千代はそれを聞き、切ない胸の痛みを感じた。志津の愛情を独占している愛花が本当に羨ましい。…というよりも、心から憎いと思う。
剣道部の練習中に愛花に辛く当たるのは、最初は玲の命令で仕方ないと思ったが、志津の存在が心で大きくなるにつれ、八千代の動悸にはだんだんと嫉妬の念が占めるようになっていた。
(でも、今は私だけの志津さまよ……!!)
そう思うと、叫びたいほど嬉しかった。