序章・そんな流れでこうなりました。-3
あくまでも試験的な段階なので、被験者として声をかける人物は限られていること。
拒否権はあるが、奥さん役―――つまり優羽を別の女性にチェンジすることは不可能であること。
必要な諸経費は研究所持ちなこと。
今回の話はすべて機密情報なので、申し出を断ったとしても内密にする必要があること。
「何かご質問はありますか?」
一通り説明を済ませた優羽が、さいごに、と尋ねてきた。
『いろいろ訳わからないんですけど…とりあえず、何で俺なんですか?』
俺は大学卒業直前で新卒切りに遭い、それから1年以上バイト暮らしをしているしがないフリーターだ。友人の中でも目立つような人間じゃないし、趣味もゲームくらいのインドア派。
こんなつまんない男が、なぜそんな大それた(?)プロジェクトの被験者候補になるのかどうにも理解できない。
わからないなりにいくつか質問をしたが、回答はほぼ同じだった。
「それは機密情報ですのでお答えいたしかねます。」
すみません、と目を俯かせて謝る優羽。
証明が照らされ、長いまつ毛の陰が涙袋に映った。
「良いお返事をいただけると私としてもうれしいのですが、いかがでしょうか…?」
い、いかがって…
こんなのおかしいだろ。発案者の頭が良いのか悪いのかわからない。
そもそも、ホントに研究所の考えなのか?優羽にもらった名刺はいたって簡素なものだし、名字も記載されていないので疑わしいことこの上ない。